やがて「ふー、切りの良いところまで書けた」再び同じことを呟いてから、「あ、もうこんな時間か」また同じことを呟いて、「ダーリン。お風呂すぐに入れるねー」今度は浴室の方に去っていった。
猫汰が去ってすぐ、開きっぱなしのノートパソコンが目に入る。
画面が点灯したままのそれを数メートル向こうで眺めていた豪星は、やがてソファを立ち上がると、そわそわしながらパソコンの前に歩み寄った。
なに書いてるのかな。猫汰さん。気になる。
いつかのように。好奇心に揺り動かされパソコンの前をうろうろしていると。「だーりーん。おまたせー」浴室から猫汰が戻ってきた。
「あ、猫汰さん」振り返って。「さっきからなにを書いてるんですか?」率直に尋ねると。「ああ、これ?」猫汰がパソコンに触れ、画面を豪星の方に向けてきた。
「見る?」そう言って、猫汰はパソコンを操作すると、画面に表示された文字の羅列を豪星に見せてきた。どうやら、この文字をさきほどから書き起こしていたらしい。
屈んで、猫汰が出してくれた文字を見てみると。そこは。
『龍児と双子』
と書かれていた。
……なんだろうこれ。
豪星も、パソコンを操作して、『龍児と双子』に続く文字を読み進めていった。どうやら小説の形式になっているらしい。と、気づいた辺りでとても嫌な予感が胸をよぎる。
『龍児と双子』の主な登場人物は、龍児とけんじとへんじで、その展開と言えば、三人が友情を確認しつつ。
最終的にはセックスになだれ込むというものだった。
「……………………」
嫌な予感大当たり。
笑顔のまま黙り込む豪星の傍で。「あのねー、ふーかちゃんがさー」猫汰が唇をとがらせながら喋りだす。
「ダーリンの小説は書き過ぎて飽きちゃったから、今度はりゅーちゃんと双子の小説が書きたいって言い出したのね?でも、そんなことになったら俺の楽しみがなくなっちゃうわけじゃない?
だから、なんとしても鞍替えを阻止したくてふーかちゃんに相談したら、誰かがりゅーちゃんと双子の小説を書いてくれたら、私はそれで満足してまたダーリンの小説が書けるかもって言うの。
じゃあ俺が書こうと思って」
俺はいまの話のどこを突っ込めばいいんだろう。
41>>
<<
top