大きな病院へ診察に出かけるにあたって。「これはもう恋人じゃなくて家族に相談する案件だと思うから、次の付き添いはダーリンじゃなくて詩織ちゃんに頼むね」ということになった。
さっそく、猫汰はマンションへ戻る途中、スマホを取り出して兄に連絡を取った。
歩きながら、通話に出たらしい相手に向かって、「あ、もしもし?詩織ちゃん?」「ごめんねー、忙しい時に」兄弟らしい、親密な挨拶をかわしている。
初めのうちは、電話で世間話をしていた神崎兄弟だったが。
その内、話題が猫汰の病気のことに移ると、段々、猫汰のスマホから漏れ出る音が大きくなってきた。
内容までは聞き取れないが、どうやら、詩織が電話の向こうで怒鳴っているようだ。猫汰には常に温厚な態度を取る人なのに。めずらしい。
怒鳴られている猫汰と言えば。「……え、あ、ごめんなさい」「うん。でも、だって」兄の剣幕に押され、次第に声が小さくなっている。
しばらくして、猫汰が通話を切ると。隣の豪星に振りむいて「……怒られたー」しょんぼりとして言った。
「ええと。お兄さんに何を怒られたんですか?」
「そんな大ごとになってるなら、彼氏と病院へ行くよりも先に保護者に連絡しろ!だって。
未成年者同士で判断がつかないようなことをお前も豪星くんも軽く見過ぎだって怒られた」
「ああ……なるほど」彼の兄の言う通りだ。
いくらつき合っているとはいえ、未成年でいる内の問題事はまず、保護者の指示を仰ぐべきだろう。
「すみません。俺、保護者に頼るという考えがまったく存在しないので。失念していました」
「謝らないでダーリン!しょうがないよ!おとーさまに頼りがいが存在しないのは俺もわかってるから!」
その通りだ。というわけで、今回猫汰が怒られてしまったのは全部、豪星の父親がダメ人間だから。という方向に投げておいた。
マンションに辿り着くと、「詩織ちゃんがこっちに向かってるみたいで、二人で話したいからって言ってるから。申しわけないけど今日は帰ってもらえるかな?」という顛末になり、わかりましたと頷いた豪星は、猫汰の部屋へ荷物だけを取りに行って、そのまま帰宅した。
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