「あー。ダーリンそういうとこある。めっちゃある」

「それなのにあなたの方が本を拾うもんだから、取り返した後はもう怖くてしょうがなかったわよ。
やばい。私あとでなにかされるんじゃないかって思った」

「ははは、すげぇ怖がられてる」

「だって神崎くん、中嶋くん以外に隙がないんだもの」

彼氏といる時は自分のすべてをさらけ出しているように見えるのに、いざ、彼氏が視界からいなくなると、まわりに拒絶の雰囲気を醸し出す。一蔵楓花の目に、神崎猫汰という人間はそう見えていたという。

「あとね、神崎くんの顔だちの良さも、私が避けてた理由かな」

「えー?俺、女の子に顔のことで嫌われたことないんだけどー?むしろ、ダーリンと付き合う前は女の子にすごくモテてたよ?」

「だから避けてたのよ。
神崎くんは勘が良さそうだから気づいてるだろうけど、あなた、男の子だった時、彼氏がいても陰で随分女子にもてていらっしゃったわよ」

「うん知ってる」

猫汰は彼氏一筋なので、そういった雰囲気も視界も彼氏に見えないようにしていたけれど。

学校中の女性が、こそこそ色のある目で自分を見ているのは知っていた。猫汰が男と付き合っているので、その色は花に発展しない。そんな雰囲気をいつもかぎとっていた。

「正直、中嶋くんが神崎くんと付き合ってくれてるおかげで、教室内の平穏が保たれてるなって思ってた。私たちの歳頃で綺麗な男と付き合えるなんてブランドのカバンよりも誇れることだもの。あなたが手あたり次第に手をつける男だったら、今頃教室どころか学校中が気まずかったでしょうね」

失礼なー。と思いつつ、中学まではそんな感じだったから否定しないでおいた。

その代わり。「ねぇふーかちゃん」一蔵楓花の、化粧気はないがすべすべとした頬に触れた。

「ふーかちゃんが男の俺のこと苦手でも、男だった時のおれはねぇ、ふーかちゃんみたいな女の子、好きだったよ?
おしゃれしなくて化粧気がなくて地味で、たいがいなんにでも一線引いてて。ひとかわむくと気が強くて。
俺みたいなのには絶対近寄ってこないし、近寄らない理由もきちんと分かってる。そういう女の子が俺はタイプだったんだけどね。
でもねぇ?ふーかちゃんみたいなタイプは近寄ってこない上に、知り合っても仲良くなっても、俺と付き合ってはくれないんだよね~」

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