一蔵楓花は趣味で男性恋愛のお話を書いているらしく。しかもそこそこ人気があるので、定期的に書きためては本にして、文学のフリーマーケットのような場所で売買をしているらしい。

ちなみに、これも彼女いわく。「私は現実にいる男じゃないと話が作れないタイプなの」らしく。そのネタの白羽の矢が、随分前から豪星と猫汰に立っていたらしい。

『中嶋君が神崎くんと男の子の時から付き合ってるのは事実だし、私が書いてるのはあくまでフィクションだし。おはなしも普段は趣味の合う人同士で楽しんでるだけだから。他人の趣味だと思って許して?』

そんなさらっと……。

人を(本の中で)あんな目に合わせておいて……。

『じゃ、神崎くんに変わってくれる?』

じゃ。って。当人目の前(?)にして流すなぁこの人。

というかこんな性格の人だったんだな一蔵さん……。

「猫汰さん。一蔵さんが猫汰さんに代わってって言ってますよ」

「ああ、うん。
ふーかちゃん。ごめんねー。怒ってない?こんどの新刊俺にも読ませてくれる?」

電話を替わるなりまたぺこぺこと謝り始めた猫汰だったが。

その内に。「えっ!?」ものすごく嫌そうな声で、電話口にかじりつき始めた。

「ええ!?俺それだけは地雷だって言ったじゃん!
やだやだ!それだけはやだ!俺読まないよ!?読まないったら!
……うっ!いやだからその。彼氏に見られちゃったのは謝ってるじゃん!……ううっ!反省してるってば!してるのにー!…………うううっ。分かったよ。一冊だけだよ!?一冊だけだからね!?」

なにやら激しい口ぶりで話を切り上げると。猫汰は肩をぶるぶると震わせた。かと思いきや。

「わー!だーりーん!」泣きそうな声で抱き着いてきた。「え?どうしました?」もしや、一蔵楓花と喧嘩でもしたのか。

だったら、豪星はその火種になったようなものだし、悪いことしたな……。

「ふーかちゃんがね!りゅーちゃんがダーリンを俺から寝取ろうとする小説を俺が読んで明後日までに感想くれるならゆるしてあげるって言うの!ひどいよね!?なんのはなしだって話だよね!?」

ほんとなんのはなしですかね。

「ふーかちゃんってば!結末はダーリンと俺のハッピーエンドだから大丈夫いけるなんて言うんだよ!そういう問題じゃないよね!?」

そういう問題じゃないですね。

「ふーかちゃんってばひどいんだよおどすんだよ!?それ読まなきゃ新刊のダーリン凌辱本見せてくれないってー!」

俺になにをする気だ。



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