「あーあ。俺が男だったときに俺とつきあってた女って、ほんと見る目ないよね。
俺だったら、男だった時の俺と付き合うなんて死んでも御免だし。
男はやっぱやさしさだって。俺、男を見る目が超あると思う。
ねーダーリン。そう思わない?」
猫汰の、豪星をほめているのやら、自分をこき下ろしているのやら、よくわからないが上機嫌な台詞に、どう返答したものかと迷ってから。
「過去の自分を卑下しちゃだめですよ……」
これが一番無難かなぁ。という返答を返すと。「ダーリンだいすき」ふふふと微笑まれた。
*
「――――あれ?なにこれ?」
朝と昼の間にある比較的長い休憩の最中。猫汰が教室で、一冊の本を拾った。
それは教科書でも小説でもコミックの類でもなく、薄い冊子のようで、そのくせ、ホッチキスではなく背がきちんととじられ製本されたものだった。
表紙はオシャレなデザインが施されていて、題は英語で記載されている。
作りに一貫性がなく、ますますどのジャンルの本か分からないそれを、拾った猫汰がぱらぱらと中を読み始めた。
豪星もちらりと中を覗くと、端々から文字の羅列がのぞき見えた。
猫汰は、初めこそそれを軽く眺めている様子だったが。その内、両手にしっかりと本を持って、中身を真剣に読み始めた。
「猫汰さん?なんの本ですかそれ?」
「ん?うん。……うん」
尋ねるも、生返事が返ってくる。彼が本にここまで食いついているのは珍しい。
彼が読書している姿は学校でも家でも頻繁に見かけるが、このように「食い入るように」読み込んでいる姿は、思うに初めてではないかと思った。
真剣な彼の様子に、それ以上声をかけられないまま過ごしていると。ふいに教室の片側の扉が開いた。
そこに、クラスメイトの女子が入ってくる。
トイレにでも行っていたのであろう彼女は、ハンカチを手にあてたまま自分の机に向かい、豪星と猫汰の隣を通ったところで――――ぎょっ!と目を剥いた。
「ちょっと!神崎くん!!それ!!」
叫ぶなり、彼女は猫汰の手から例の本をむしりとってしまった。
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