「うん。そうしよっか」
未だうろたえている豪星とは反対に、猫汰の声が段々と落ち着きを帯び始めていた。
どうやら自分の変化を受けとめつつあるようだ。彼の柔軟さは、こういう時にも巧を成すらしい。
「ところでダーリン。この病気って内科と婦人科、どっちに行けばいいのかな?」
「……すみません。俺じゃ判断がつきません」
「それもそうか。じゃ、近所の内科にとりあえず行ってみよう」
さっそく、保険証を入れた財布を持って猫汰が外出の支度を始める。
豪星といえば、どうしようかな。と少し迷ったあと、「猫汰さん。俺も行きます」心配と落ち着かなさから付き添いを申し出た。
「ありがとー。近所の内科予約できない所為でめっちゃ混んでると思うから、暇つぶしに付き合ってくれると助かる」
「お安い御用です」
お互いの支度を終えると、猫汰の暮らす高層マンションを出て地上に降りる。
猫汰の言う「近所の内科」は徒歩で行ける場所にあって、大体十五分ほど歩くと目的の診療所にたどり着いた。
屋根の丸い、こじんまりとした診療所に二人で入り、受付を済ませて待合室の椅子に座る。
客層は、親子が二割、老人が八割。猫汰があらかじめ言っていた通り、待合室は人で込み合っていた。
受付でもらった順番待ちの札を見る限り、猫汰の診察は大分後になりそうなので、豪星は猫汰と世間話をしたり、時々黙ったり。
猫汰が持ってきた、診察所が用意している暇つぶし用の雑誌を一緒に眺めたりしながら時間をつぶした。
大体、一時間ほど経過したころ。
「神崎さーん。神崎猫汰さん。どうぞー」
奥の診察室から、看護師の呼ぶ声が聞こえた。
「はーい」猫汰が呼びかけに答えて立ち上がる。
立ち上がった猫汰を見上げると、ちょうど、こちらを振り向いた猫汰が「ダーリン。ちょっと待っててね」豪星に待機をかけて、診察室の方へと歩き去っていく。
それから、豪星だけ待つこと二十分後。
診察室から猫汰が退出し、こちらに戻ってきた。
3>>
<<
top