「そんな簡単に猫から人の形に戻れるんだ。おもしろいねー」
「あ、あ、あの」
「おれ、吸血鬼はコウモリになるもんだと思ってたんだけど、違うんだね。それとも君だけが違うの?」
「い、いやその」
「なあに?」
「―――すみませんでした!」土下座すると、「うん?」相手の口から頓狂な声がもれる。
「お、おれ!未熟者で半端もので!あの!アナタからものすごく美味しそうなにおいがして!どうしても噛みつきたくなっちゃって!
ちがうんです!いつも自制はしっかりできるんです!ただ、はじめて美味しそうな人に会って我を忘れちゃっただけで!今後はこのような事いっさい起きませんから!他の吸血鬼は俺とちがってもっとしっかりした人ばかりですから!
だから!ええと!通報はしないでくださいー!」
刑法に触れると不味いのだ。ということを、必死に伝えようとしたのだが。
「ああうん。それはもういいよ」相手の反応は先程とちがい、けろり、あっさり。軽いものだった。
「……え?いいんですか」
「うん。君が寝ている間にそれはどうでもよくなった」
「それよりも」つと、相手が片手を上げて豪星の頬を撫でた。
そのとき、相手がとてもかっこいい人だと、はじめて気付く。
「すごいね。吸血鬼なんて本当にいるんだ」
「は、はい」頷くのと同時に喉をなでられる。こそばゆい。頬があつくなった。
「ねえ。名前はなんていうの?」
「え、えっと。豪星です……」
「へえ。豪星くんって言うんだ。見た目よりもいかつい名前だね」
「よく言われます……」
「それで豪星くん。よくよく考えたらどうして俺にかみついたの?この辺で首を噛みつかれる事件なんて聞いたことないから、俺がかみつかれたのには訳があるんだよね?」
「それは……」
吸血鬼を初めて目の当たりにした人になんと説明すれば良いものか。数秒悩んでから、全部話すことにした。
相手は豪星から事情を聞き終えると、「へえ。そうなんだ」あっけらかんと受け入れた。ついでに「それじゃあ君は、今でも俺の血が飲みたいの?」と問われて、ぐっと喉が鳴る。
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