「や、やめて……っ、おねがいだから……!」
逃げ回る相手を追いかけている内に、頭がふらついてきた。どうやら体力がこと切れてしまったらしい。その内立てなくなって、ヒザがおれると、豪星は床の上にぺたりと座り込んでしまった。
相手が、しめた!と飛びのき、窓を開ける。
「う……っ、やめて……っ」相手を止めないといけないのに全く動けない。どうしよう。どうしよう。処罰されちゃう。
吸血鬼は種の保存のため、仲間にとても親切だけれど、その反面、種の保存のためには、危険分子や原因には冷徹だ。似たようなケースで殺された吸血鬼の話を、豪星は幼いころからたくさん聞かされている。
俺もあんな風になっちゃうのだろうか。
いやだ。こわい。
のんびり暮らせればそれでよかったのに。突然の本能に振り回されるなんて。
どうしよう。どうしよう……。
「……ねえ。ちょっと」
「え……」頭の上から声がする。ゆっくり顔を上げると、相手の目と目がぶつかった。
「ひとのこと襲ったくせになに泣いてんの?……また倒れてるし」
「……だ、だって、おれ、協会に処罰されちゃう」
「は?なに処罰って。血をのむのが好きな変態の協会でもあるの?」
「ち、ちがう。おれ、変態じゃなくて、吸血鬼で」
「は?吸血鬼?なにそれ?ハロウィン近いからって、もうちょっと笑える冗談言いなよ」
「冗談じゃなくて……あ……もうだめ……」
喋っている内に力尽きて、ぐらりと視界が暗転する。最中。
「―――――ひっ!なにこれ!」かしいだ豪星のそばで、大きく息を呑む音が聞こえた。
*
なんだろう。あったかい。
なでられている感触にふと目をさませば。
「なんでコウモリじゃなくて猫に変身するんだよ。意味わかんねぇし」
ぶつぶつ、悪態をつく人の声がする。そっと顔を上げると。
「あ、起きた?」
「――――うわ!」相手のヒザから飛び起きた。
はなれたついでに身体の形が元にもどると、「へぇぇ」相手の口から感心の声がもれる。
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