「や、やめて……っ、おねがいだから……!」

逃げ回る相手を追いかけている内に、頭がふらついてきた。どうやら体力がこと切れてしまったらしい。その内立てなくなって、ヒザがおれると、豪星は床の上にぺたりと座り込んでしまった。

相手が、しめた!と飛びのき、窓を開ける。

「う……っ、やめて……っ」相手を止めないといけないのに全く動けない。どうしよう。どうしよう。処罰されちゃう。 

吸血鬼は種の保存のため、仲間にとても親切だけれど、その反面、種の保存のためには、危険分子や原因には冷徹だ。似たようなケースで殺された吸血鬼の話を、豪星は幼いころからたくさん聞かされている。

俺もあんな風になっちゃうのだろうか。

いやだ。こわい。

のんびり暮らせればそれでよかったのに。突然の本能に振り回されるなんて。

どうしよう。どうしよう……。

「……ねえ。ちょっと」

「え……」頭の上から声がする。ゆっくり顔を上げると、相手の目と目がぶつかった。

「ひとのこと襲ったくせになに泣いてんの?……また倒れてるし」

「……だ、だって、おれ、協会に処罰されちゃう」

「は?なに処罰って。血をのむのが好きな変態の協会でもあるの?」

「ち、ちがう。おれ、変態じゃなくて、吸血鬼で」

「は?吸血鬼?なにそれ?ハロウィン近いからって、もうちょっと笑える冗談言いなよ」

「冗談じゃなくて……あ……もうだめ……」

喋っている内に力尽きて、ぐらりと視界が暗転する。最中。

「―――――ひっ!なにこれ!」かしいだ豪星のそばで、大きく息を呑む音が聞こえた。







なんだろう。あったかい。

なでられている感触にふと目をさませば。

「なんでコウモリじゃなくて猫に変身するんだよ。意味わかんねぇし」

ぶつぶつ、悪態をつく人の声がする。そっと顔を上げると。

「あ、起きた?」

「――――うわ!」相手のヒザから飛び起きた。

はなれたついでに身体の形が元にもどると、「へぇぇ」相手の口から感心の声がもれる。

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