猫汰と式を挙げる前に、一度龍児の家に泊まってみたくて約束したんだった。

まれな事をすると、うっかり忘れるもんだな……。

「ごめん、なんか気持ちよくてぼんやりしてた」

「べつにいい。それより、いつ帰るんだ?夕飯は食っていくか?」

「ううん。猫汰さんに5時には帰りますって言ってあるから、その前には帰るよ。……いてて。寝すぎたかな。目がぱりぱりする」

「ん。そっか」

「ちゃんと5時に戻らないと、猫汰さん怖いからさー。いまだに、俺と龍児くんの浮気を疑ってるくらいだし」

「俺とお前の?」

「うん、そう」

「ふうん。ジャックと吸血鬼の浮気を疑うなんて、変なやつだな」

「でしょ?ありえないのにね。……あー、なんかすごくノドかわいた」

もらったお茶に口をつけて、ごくりと飲み込む。

「はー」

さわやかな苦みが、ノドをとおりぬけていった。







無事、大学を卒業すると、6月を待って俺たちは挙式を迎えた。

海が見えるレストランで、少ない招待客に見守られながら、粛々、というよりは、和やかに式が進んでいく。

父親には一応、式の招待をするから前もって連絡するよう伝えてあったのだけれど、結局電話も本人も来なかった。

そういう人だから別にいいんだけど、俺のほうだけ親族がひとりもいないのはちょっと複雑だ。

意外だったのは、猫汰が龍児を招待することについて、全く異論をとなえなかったことだ。

ちょっと前まで、何度説明しても「浮気じゃないのか」と疑っていたくせに、いざ、式に誘っても良いかと頼んだところ、「ああいいよ」と、あっさり了解を得た。

猫汰いわく。

「よく考えたら、せーちゃん、式に呼べる人少ないもんね」

ぼっちを哀れんでのことらしい。ちょっと傷ついた。

結婚式で大体するであろう進行を済ませたあと、誓いのキスの前に予定していたお色直しをした。

自分は正装で、猫汰はウェディングドレスを着る。これがまた意外にも、猫汰の実兄に大うけした。

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