「なに」

「俺のことおぼえてますか」

「は?覚えてるもなにも、アンタのこと知らねぇんだけど?」







豪星は踵をかえし、龍児の元へ戻った。

しばらく暮らす場所に困るから、泊めてはもらえないかとお願いしたところ、快く受け入れてもらえた。

「ありがとう、龍児くん」

「ううん。何か食うか?」

「いいの?じゃあ、もらおうかな」

心遣いをありたがく受け取ったが、豪星はその日、用意してもらった食事をほとんど食べることが出来なかった。

空腹と共に感じる血への欲求もなぜかわかない。ごっそり、食欲というものが無くなってしまったようだった。

龍児は、食事を残したことを特に咎めず、もくもく片づけると、「ちょっと出かけてくる」と言って外に出てから、しばらくして、布団をひとくみ抱えて戻ってきた。

しばらくいるだろ?と聞かれ、頭が下がる。至れ尽くせりだ。

「ごめんね。なにからなにまで」

「いいよ。友達だろ」

「うん」

買ったばかりの布団を出して、たたむ頃。夕方が過ぎていた。

龍児が再び用意してくれた料理を、またほとんど食べられずに残し、風呂に入ってぼんやりしてから、さっそく、新品の布団をかぶって目を閉じた。

「おやすみ、龍児くん」

「おやすみ」挨拶をかわしてから、龍児が電灯を切る。

「…………」

なにも食事をしていないわりに、睡魔はしっかり豪星の元におりて、うとうとしている内に、意識がふうっとなくなった。



それから豪星は、何事もなく龍児のところで三日を過ごした。本当に何事もなくて、目が覚めるたび「ここはどこだったかな」と思うくらいだ。

つい、それを口にしては、「俺のうちにいるんだろ?」龍児に笑われる始末だ。

一週間がたってからは、目が覚めるたび猫汰の様子を探りに出かけた。龍児の騙しがもし解けていたら大変だから。こっそり遠くから眺めては、何事も起きていないかを毎日まいにち確認した。

毎日何事もなくて、そのつど安心した。

大丈夫。猫汰は自分のことを忘れている。

毎日まいにち確認した。

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