「だからお前は、俺に、お前の恋人がお前のことを忘れるよう騙して欲しいんだな?」

「うん、うんっ」

最初から俺たちの関係などなかった事になれば、すくなくとも、彼のこれからの寿命はなくならない。

俺は協会に頼るなり、他の人の血を見つけるなりして折り合いをつければ良い。

とにかく、彼と離れさえすれば。

「豪星、それは出来ないよ」

頷くそばから否定され、「なんで!?」目を見開く。龍児はなお、首を横に振った。悲し気な顔で。

「そんな事をしたら、お前はもっと泣くじゃないか」

――――そうだとしても。

「お願いだよ、龍児くん。俺、こんなのいやだよ。お願いだから……っ」

涙を増やして頭を下げると、龍児の戸惑う気配がした。

分かってる。友達からこんな頼みを受けるなど嫌に決まっている。それを承知で押し付けているのだ。

きっと猫汰のことだ。いくら頼んでも離れてはくれないだろう。だから、もうこれしかないのだ。龍児に頼るしか。

「…………わかった」やがて龍児は頷いて、豪星に顔を上げるよう告げた。

目と目が合って、頷き合う。

「今からお前の家に行ってくる。俺が帰ってきたら、お前は自分の家にもどって、恋人がお前のことを忘れているか確認してこい」

そういって、龍児は立ち上がると、豪星を残して部屋を出て行った。

それから、陽が昇り切る前に。「ただいま」龍児が戻ってくる。

「騙してきた。ほら、行ってみろ。お前の恋人はお前のことを忘れているから」

「うん!」脇目もふらずに立ち上がり、龍児の横を通り抜けて家を目指す。

良かった。これで猫汰さんは死なないんだ。良かった。これで良かった。

家にたどりつくと。「あ!」ちょうど、扉の前に猫汰が居た。喜びから「猫汰さん!」思わず、いつものように声をかけると。

「は?」相手が訝し気にこちらを振り返って、すぐ。

「アンタだれ?」冷たい声で言い放つ。ひゅっと、息をのんだ。

「あ、あの」そうだ。騙してもらったんだ。それを確認しに来たんじゃないか。

「なに?」

「い、いえ。えっと、あの……すみません、ちょっと、お聞きしたいんですけど」

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