父親の、涙でぐちゃぐちゃな説明を、宇宙の言葉のように聞いていた。理解ができなくて、のみこめなくて、ずっと黙りこくっている。

月がどれだけ傾いたころだろうか。

「どうして」

ひとすじ、涙を流してつぶやく。

「どうしてもっとはやく言ってくれなかったの?」

「ごめんね」

豪星の嘆きに、父親が嗚咽をこぼす。

「しあわせそうな君たちを見てると、言えなかったんだ」







いつごろ帰宅したのか全くわからない。けれど。

「せーちゃん!よかった!日付越えても帰ってこないから心配してたんだよ!」

家に帰ってすぐ夜更けの帰宅を心配されたので、たぶん、2時とか3時とか、そのくらいだろう。

「すみません……」痛む頭を軽くふって謝ると、すぐ、「ううん。いいの。寒いでしょ?身体ひえてるよ。事情は中で聞かせて」猫汰に部屋の中へといざなわれた。

お茶をいれるため、猫汰はキッチンにとどまり、豪星は、ぼうっとしたまま部屋の真ん中へと入った。

猫汰と暮らすようになってから使い始めた棚や、前の部屋から使っている机などが、今に限ってやたらと目に入る。

「せーちゃん。お腹すいてない?なにか作ってあげようか。がっつり?それともあっさり?」

お茶をいれた猫汰が、机にカップをおくなり覗き込んでくる。あ、とも、うん、とも言えなかった。

「それとも血のほうが良い?」いつも通り、何気なく聞かれて。

「いりません」そのひとことだけ、はっきりと口にした。

「別にいいよ?昨日飲んでないじゃん」

「いりません」二度否定すると、「……せーちゃん?お父様とのお食事会でなにかあったの?」猫汰に訝しまれた。

「様子が変だよ?どうしたの?」

「猫汰さん」うつむいて名前を呼ぶ。顔が見られない。

「俺と別れてください」

少ない言葉で言い切ると、猫汰のノドからひゅっと、息をのむ音が聞こえた。静寂がしんとした空気におりて、けれどすぐ。

「理由を言って」凛とした声で聞き返される。一瞬しか取り乱さないのは、つくづくこの人らしいと思った。

32>>
<<
top