「……豪星、きいてほしいんだ」
「え?なに?」
「母さんの、死因のことだ」
「え?」なにを突然。こんなところで。
「豪星。母さんが死んだのはね、病気のせいじゃないんだ。……ぼくの所為なんだよ。」
父親はこちらの顔を見ず、うつむいたまま続けた。
「母さんはお前を三十の半ばで産んでから、四十歳で亡くなった。僕はそれを、初めは早死にだと思っていた。母さんの寿命だったんだって。
けど、違ったんだ。あとで分かった。人間と添い遂げようとした吸血鬼は、相手を早死にさせてるんだ。僕たちが、相手の寿命をたべたんだ。
そりゃそうだよ。血を飲まれれば寿命が減るなんて、なんでそんな簡単なことに今まで気づかなかったんだろう」
「…………」
「自尊心の高いやつは、吸血鬼同士でパートナーを選ぶ。エサはエサ、同族は同族だって。けど、同族で結婚したやつらって、どっか冷えててね。僕の両親もそうだったよ。
僕はずっと、そんな親が嫌いだった。だから、母さんと出会ったときはうれしかったよ。彼女が僕にとってエサだったとしても、それを含めて、この人となら支え合っていけると思ってた。あんな、まざりのない血のためだけに夫婦になるなんていやだった。ばかげてると思ってた。
けど。
馬鹿なのは僕のほうだった。相手を死なせて、なにを支え合っていけるんだよ。
食欲に情が湧いた結果がこれだ。みじめなもんだ。
まだ、複数のひとから血をとっていれば、寿命の減りはゆるかったんだと思う。けど、僕は、いつも母さんから血を採っていた。それが誠実さだと思ってた。……誠実なもんか。それが裏目に出たばっかりに、母さんは、」
「…………」
「吸血鬼にネグレクトが多いのはその所為だよ。純潔は子供を愛おしく思わないし、人間とまざっても、死なせてしまった人の子供に、どんな顔を合わせてやればいいんだ。
けど、そんな大事なことを協会は言わないんだ。そりゃそうだ。協会は、子孫の残る可能性はなんとしても拾いたがるからね。混血児ですら保護するほど、僕たちの血族は少なくなっているからさ。
なあ豪星。君がハーフでも、手厚い環境を貰えるのはその所為だよ。なあ……僕がいなくても、君は育っていけただろう?そうして君は、必然的にエサを見つけて、そこに愛をもってしまった。
人間に恋をした。
親子の関係がこれだけ破たんしているのに、人間と結婚したがるなんて、やっぱり親子だねぇ、僕ら」
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