去り際、医者はこう言い残していった。
「君も吸血鬼のはしくれならば、必ず狩りが出来るよ。吸血鬼に魅了の習性があるのは知っているだろう?だから、君はまず色々な人間に会ってみなさい。
君が魅了できる人間はすぐにわかる。向こうが近づいてくるし、なにより美味しそうなにおいがするからね。美味しそうなにおいのする人間は、君のことをすぐに気に入るから、安心して捕まえなさい。
豪星くん。魅了とはすなわち、君が相手に愛されることだ。
人間は愛を覚えると、とたんバカになる生き物だからね。血の一滴や十滴、喜んで差し出すようになるだろう。それを利用しなさい。
いいね。もう一度言うけれど、魅了できる人間を探して、その首すじにかみつきなさい」
―――そんなこと言われても。
医者の言葉を思い出しながら、ヒザにひたいをうずめる。
医者の言う事は昔から、出会ったことのある吸血鬼全員に教わったことだ。
だから、意味は理解しているし覚えてもいる。けれど。その「魅了」というものに、ぴんときたことがないのだ。
豪星は今まで、どんな人間に会っても「おいしそう」と感じたことがない。もっと言えば、血液をのむというのも得意か苦手かといえば、後者だった。これも混血の影響か、豪星の舌は食事をした方が美味いと思うように出来ていた。
血液は、おなかがすくし喉もかわくので必要になったら飲むけれど、進んでは飲みたくはない。―――そんなことを思っていたから貧血になってしまったんだ。
ああ。どうしよう。
ぐるぐる考えていると余計にぐらぐらする。
とにかく此処で休んで、動けるようになったらすぐにうちへ帰ろう。このままでは力尽きて、吸血鬼の形を崩してしまうから。
「は………きついな」
身体は冷えているのに、なぜか伝い落ちる汗を、片手でぐいとぬぐった。
そのとき。
「ねえきみ。どうしたのー?」
うずくまる自分の真上に影が落ちる。
「大丈夫?さっきからずっとうずくまってるけど。具合がわるいの?」
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