猫汰がなぜ、毎日、彼氏のもとへのんびり通い妻をしていられるかといえば、そもそも、学校へ行っていないからだ。

なぜ学校へ行っていないかと言えば、「行く必要がなかった」としか言いようがない。

中学生のころ、勉強をゲーム感覚で楽しんでいる内に高校に必要な分まで終えてしまった。一応、高校一年生にはなったけれど、退屈過ぎてすぐにやめてしまった。

猫汰の兄は会社を経営しているので、今後就職するにも困らないし、兄自身も、弟の好きなようにすれば良いと言ってくれている。

だから、学校という場所に行く必要はないと思っていたのだけれど。

「いいなあ。学校」

彼氏の口グセがきっかけだった。

吸血鬼というのは、会話に困らない程度の国語のみ援助を受けるが、本人が希望すれば、その他の教科も高等教育まで受けさせてくれるらしい。

が、猫汰の彼氏は、「希望すれば学校に行けるなんて、わざわざ教えてくれる人がいなかったし、自分で考えられるようになった頃には、そんなことに構っている余裕がなくなっていた」との理由で、学校というものに行ったことのない人だった。

その彼氏が、一応高校の一年までは学校へ行ったことのある猫汰に、「学校とはどういう場所か」と話をせがむようになった。

説明がてら、興味があるならと、初等教育レベルの勉強を教えてあげると、彼氏は大いに喜び、以降、猫汰に勉強をせがむようにもなった。

驚くべきは、彼の吸収の速さだ。おそらく、もともとの知能が高かったのだろう。

そういう種族なのか、それとも、彼だけそうなのか、分からないけれど。

大体、3年ほどで中等教育の半ばまで覚えてしまった彼は、そのころから「いいなあ。学校」のひと言を、ひんぱんに繰り返すようになった。よほど、勉強というものが彼の身にあっていたらしい。

あまりに繰り返すので、つい、猫汰もつられて学校生活を想像するようになってきた。

主に妄想するのは、彼との校内デート。流行りのカフェに入る下校デート。学校のイベントをいっしょに見て回るイベントデート。ふふふ。いいねいいね。

そしてある日、ふと気づいた。

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