彼は事情が複雑なので、会いたくなってもこちらからはたずねにくいのが難点だ。

突然大きく育った龍児を、上から下までながめていると、「こっちのほうが働きやすいんだ」龍児が、にこにこ笑って理由を告げた。

「龍児くん、働いてるの?」

「うん。ここの近くのスーパーで働いてる」

「でも、ご両親は……」

たしか、十歳の状態で同居していたはずだけど。

「ばれたんだ」

小さくつぶやく彼を見て、「あっ」しまったと口をおさえたが、もう遅い。

「いいんだ。こればっかりはしょうがない。俺が騙したひとたちの知り合いが、どこにいて、どこで俺のことをばらしてしまうかなんて、俺にはわからないから。

そいつらもだませたらいいんだけど、今は、メールとか電話とか、連絡手段がたくさんあるから。ふさぎようがない。

でも、たのしかったよ。ずっと楽しかったから、もういいんだ」

「……そっか」

豪星に、自分がジャックだとばれてしまった時はあれほど取り乱したのに、今の龍児はとても落ち着いている。

中身まで大人になってしまっているのか、それとも、彼なりのやせ我慢なのか。

「それより豪星。おまえ太ったな」今度は、龍児が豪星を上から下まで眺め始めた。あははと笑って、自分の、随分ふっくらしはじめた頬の肉をつまんで見せる。

「ちがうよ。太ってない。これが普通の体型なんだって。前が痩せすぎなんだって」

「誰かに言われたのか?」

「うん。恋人に言われた」

龍児が、へえ、恋人出来たんだと、意外そうにおどろく。

「それじゃあ、しあわせ太りってやつだな」

「そうかもね」

「そっか。豪星がうれしいと俺もうれしい」

「……ありがとう」

家族だったひとたちを失ったばかりだというのに、こうして他人の幸せを喜べるジャックは、性根の優しい人だと思う。

それだけに、彼の根元にすみつく理不尽がなんとも寂しい。

「じゃ、これ、恋人と食え」しんみりしている豪星に、龍児は持っていた袋を押し出した。どうやら、手土産の袋だったらしい。

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