「お、おれも猫汰さんのこと大事ですよ!」
「そりゃそーだ。おいしいごはんを作ってくれるもんね。ふたつの意味で」
「そ!それもあるけど!そうじゃなくて!」
どうやって言ったらいいんだろう。そんな風に独り言ちてから。はっと、彼氏が顔を上げて。
「お、おれの初恋もたぶん、猫汰さんですよ」きりっとした顔で告白されるも、「なんだよ。たぶんって」口説きのクオリティに突っ込みをいれる。
「そこは絶対って言いなよ。まったくもう、見た目も性格も、あいかわらずキまってないんだから」
「いたた。いたい、猫汰さん痛い。つねらないで」
「うるさい。ばーか」
まあ。そこがかわいくて良いんだけどね。
しばらく、彼氏をつねって遊んでいると。「ふふ」そばで吹き出す音が聞こえた。お父様の笑い声だ。
「ははは。いいね、うん。相思相愛だ」
お父様はひとしきり笑ってから、しばらくして笑い終えると。「それじゃあ、馬に蹴られる前に僕は退散するね」くるっと向きを変え、たかと思えば、ふっといなくなってしまった。
「それじゃあ二人とも、じゃあね」
よくみると、夜道に猫が一匹。走り去って行くのが見えた。
*
長い冬が終わると、ポカポカした陽ざしがのぞきはじめる。
そろそろ衣替えの時期かなぁと、使った布団を片づけていると。
「猫汰さーん。コーヒー切れちゃいました。ストックありますか?」
キッチンから、彼氏がひょいと顔を出す。まだパジャマすがたで、髪もぼさぼさのままだ。
「ちょっとせーちゃん。コーヒーのむ前に着替えくらいしてきてよ。あと髪。寝ぐせひどいから直してきて」
「はーい」彼氏が奥に引っ込んで、数分後「着替えました。コーヒーのストックどこですか?」普段着に着替えて戻ってきた。
直し方が甘いせいか、髪にはまだクセがいっぱいついている。
……いや、それよりも。
「ねえせーちゃん。前から思ってたんだけどさ」
「はい?」
「せーちゃんの私服って、だっさいよね」
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