「お、おれも猫汰さんのこと大事ですよ!」

「そりゃそーだ。おいしいごはんを作ってくれるもんね。ふたつの意味で」

「そ!それもあるけど!そうじゃなくて!」

どうやって言ったらいいんだろう。そんな風に独り言ちてから。はっと、彼氏が顔を上げて。

「お、おれの初恋もたぶん、猫汰さんですよ」きりっとした顔で告白されるも、「なんだよ。たぶんって」口説きのクオリティに突っ込みをいれる。

「そこは絶対って言いなよ。まったくもう、見た目も性格も、あいかわらずキまってないんだから」

「いたた。いたい、猫汰さん痛い。つねらないで」

「うるさい。ばーか」

まあ。そこがかわいくて良いんだけどね。

しばらく、彼氏をつねって遊んでいると。「ふふ」そばで吹き出す音が聞こえた。お父様の笑い声だ。

「ははは。いいね、うん。相思相愛だ」

お父様はひとしきり笑ってから、しばらくして笑い終えると。「それじゃあ、馬に蹴られる前に僕は退散するね」くるっと向きを変え、たかと思えば、ふっといなくなってしまった。

「それじゃあ二人とも、じゃあね」

よくみると、夜道に猫が一匹。走り去って行くのが見えた。





長い冬が終わると、ポカポカした陽ざしがのぞきはじめる。

そろそろ衣替えの時期かなぁと、使った布団を片づけていると。

「猫汰さーん。コーヒー切れちゃいました。ストックありますか?」

キッチンから、彼氏がひょいと顔を出す。まだパジャマすがたで、髪もぼさぼさのままだ。

「ちょっとせーちゃん。コーヒーのむ前に着替えくらいしてきてよ。あと髪。寝ぐせひどいから直してきて」

「はーい」彼氏が奥に引っ込んで、数分後「着替えました。コーヒーのストックどこですか?」普段着に着替えて戻ってきた。

直し方が甘いせいか、髪にはまだクセがいっぱいついている。

……いや、それよりも。

「ねえせーちゃん。前から思ってたんだけどさ」

「はい?」

「せーちゃんの私服って、だっさいよね」

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