「そこのところ便利だよねぇ、僕たちの吸血って」
「それよりおとーさま。さっきから探されてるお宅の息子さんは今、買い物に行かせてるところですよ」
「行かせてるって言い方が、めっちゃ尻にひいてる感じがするね」
「いや、尻の引かれ具合はイーブンですよ。それより、多分ですけど、せーちゃんそろそろ帰ってくるんで」
お茶でも飲んで待ってます?と、言いかけた時。「ねこたさーん。戻りましたよー」玄関口からのんびりとした声が振って、すぐ、「あれ?父さんひさしぶり」親子が対面を果たす。
「ひさしぶりー豪星くん。近くに来たから寄ってみたよ」
「そうなんだ。何年ぶりだっけ?」
「うーんと、5年くらい?」
5!?ネグレクトも真っ青だな!
その割に、お互い気にした風もないし。……吸血鬼の家庭って複雑だなぁ。
首をかしげて黙り込んでいると、「猫汰さん。父さんのごはんも作ってもらっていいですか?」彼氏がもてなしてほしいと頼んでくるので、ふたつ返事で了承した。
事情が複雑でも、なんだかんだ彼氏の親である。丁重にもてなさなくては。
とりあえず、今日作る予定だった献立の変更を考える。とはいえ、急な来客なので材料が少なく、さほど凝ったものは作れそうにないのが、いつも通りくちおしい。いつか、めちゃくちゃ凝った料理をふるまってみたいものだ。
「おお!豪星くん。彼氏のごはんおいしいね!」
「でしょう!俺も猫汰さんの料理大好きなんだ!」
とはいえ、親子そろって気が優しいのか、ほめちぎりながらむしゃむしゃ食べてくれるのはありがたい。いつかきちんと、報いてあげなければ。
お父様は、夕飯を食べつつ近況を話し合い、話すことがなくなると、テレビを見ながらのんびり夜を過ごし、二十三時を過ぎると「それじゃあ」と言って腰をあげた。こんな夜更けに帰ろうとするあたりも、なんだか吸血鬼っぽい。
「楽しかったよ豪星くん。猫ちゃん。僕、そろそろ行くね」
「分かった。またね父さん」
「うん。またね」
「俺も今日は帰ろうかな。うちの掃除がしたいし」
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