出会ったのは偶然だった。たまたま、街中で、「ジャック」と思しき少年を見かけたのだ。
ジャックオランタンを見分けるのは偶然に頼るも簡単だ。
彼らは「だましている時」と「油断している時」にかぎり、瞳の色がオレンジ色に見えるようになっている。あれは初代による罪の名残だと言われているが、真意は分からない。
ただ、オレンジの目をした、ジャックと思しき少年を見かけた時、豪星はあまりに驚きすぎて「えっ、ジャック?」と、聞こえる音量で言ってしまったのだ。
その時の、相手のうろたえぶりと言ったら筆舌につくしがたい。真っ青になって真っ白になって真っ赤になった彼に、豪星はその場で拉致された。どう見ても十歳くらいにしか見えないのに、ひょいと豪星を抱えるので驚いたものだ。
ジャックは豪星を拉致すると、目を何回も何回もしばたたかせながら、「おれのことだれにもいわないで!」と繰り返した。
もちろん、彼とはゆきずりなだけで、誰かに言うつもりは毛頭ない。だから、言わないよと何度も説明したが、「言わないで」と懇願するわりに相手は全く豪星を信用せず、それからしばらく、豪星は彼にストーカーされたのだった。
彼は、豪星が、誰かに自分のことをばらさないか監視していたつもりなのだろう。
そのくせ、つけているのがバレバレだったので、初めは視線が面倒だった。けれど、その内、雨の日も台風の日もこちらを監視する年端もいかない少年がだんだん哀れに見えてきて、ある日、寒いから中に入りなよと、ウチに上げた。
初めは驚いていたジャックだったが、監視がしやすいと踏んだのか、恐る恐るワンルームの一室へ入り込んできた。それからは、話をするようになったり、食事をいっしょにとるようになったり、ようするにお互いの存在に慣れてしまった。ストーカーがそのまま友達になってしまったわけだ。
ジャックは親しくなると、聞けば自分のことを喋るようになった。
ジャックは、自分の名前を「龍児」と名乗った。ただ、これは人間につけて貰った名前で、そもそもジャック種は、ジャック以外の名前をつけられることなく放浪している。とのことだ。
ジャック、もとい龍児はときどき、人間の夫妻と一緒に歩いていた。あのひとたちは誰だと問えば、「俺が騙してるひとたちだ」と、悲しそうに言った。
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