どうも。神崎猫汰です。

俺、最近、人生初の彼氏。しかも「吸血鬼」っていう、非常にややこしい恋人ができたのだけれど。

ちょっと困ったことになっています。

「ちょっと!ちょっとせーちゃん!」

「猫汰さん……っ!」

この、せーちゃんこと、俺におおいかぶさって顔を赤くしているのが、中嶋豪星こと、くだんの彼氏である。

顔は、よく言えばまあまあ、悪く言えば普通以上イケメン以下。身体はやせ細っていて、お肉なんてまったくない。むしろ骨が浮き出ている。

この、まったくモテそうな要素を持たない男が、俺にはタイプだったりするので、世の中趣味はいろいろだなって思ってる。

それはさておき。

「だめ!だめだってば!今朝もしたでしょ!?」

「お願いです!もういっかい!もういっかいだけ!」

「そう言って昨日も二回三回したじゃん!だめだからね!?今日という今日は絶対に折れないからね!?」

「ねこたさーん!」

「そんな可愛い声出してもだめったらだめ!こら!押し倒すな!――血を飲むのは一日一回までって言ってるでしょーーーー!」

みぞおちを軽くけとばして逃げると、派手に転んだ相手がその場でうずくまり始めた。なんとも哀れを誘う格好である。が。

その手ももう食わないんだからね!

そりゃ、欲しい欲しいって求められているんだから、可愛い彼氏のためにひとはだ脱いであげたい気持ちはあるんだけど!

二回も三回も飲まれると!一日中動けなくなったりするんだから!

家事も料理もへったくそな彼氏に代わって、俺が家のことしてるんだから!うごけなくなるの困るんだってば!

「それなら俺が家事も料理もやります」っていうけど、そう言ってシャツをぐちゃぐちゃにしたりカップ麺ばっかり出してきたりするんだから!

しっかりできる状態になってからそういうことは言いやがれ!

なんて、文句をぶつぶつ考えていると。

「おねがい……ねこたさん……おなかすいた……」

うずくまったまま、彼氏がちらりとこちらをのぞき見た。上目遣いである。

「うっ」思わずノドが詰まる。

くっそ!可愛い顔しやがって!なんだその捨てられた子犬みたいな目は!

あれだろ!?そうやって可愛い顔してれば俺が折れると思ってわざとやってんだろ!?

そのくせ、「いえそんなつもりは毛頭ありません」みたいな、天然ぶるのも上手いんだよこいつ!いや実際天然なんだけど!そこがあざとい!ほんとあざといはらたつ!

「だめ?」

こ。

こここここここの。こいつ。ほんとにわざとやってんじゃ…………ああだめかわいい。

吸血鬼って、ルビふると「てんし」って読めるんじゃね?訓読み的な。

「……いや、ほぼ成人になりかけの男に向かって天使ってなんだよ……」

俺、ここんところ、めっちゃバカになってるよね……。

「これが、ほれた弱みにつけこまれる。って奴か……」

「なんの話ですか?」

「ううん。なんでもない。せーちゃんには関係あるけどないから」

「そうですか。分かりました。ところで猫汰さん。おなかすきました」

「しれっとはらぺこつなげるなよ。……あーもう。いいよ。分かったよ。もう一回だけだからね?三回目はないからね??」

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