「あのー、猫汰さん」
『……ダーリン』
「いれてもらえますか?」
『……うん。ちょっとまってて』
カギを開けてもらい、部屋の中へ入る。こたつの上には、今日、いっしょにたべようと思ったのであろう。料理や酒がところせましとならべられていた。
ケンカしても、準備だけはしておいてくれたんだな。
「猫汰さん。さっきはすみませんでした」
「……うん。おれも。ちょっと言い過ぎた」
「いえ。俺も。
そうですよね。人間だれしも、苦手な人はいますもんね。猫汰さんは、自分が苦手な人と俺が仲が良いのを、あまりよくおもってないんでしょう?」
「……いや。えーと。なんていうか、ちょっと違うっていうか、かゆいところのすぐ下をひっかかれたような」
「なんですか?」
「……うーん。まあいいや。そうだね。俺、あいつ嫌い。だからダーリンと仲良くしてほしくない」
「そうですよね。でも、俺、彼のこと好きなんです。友達として。
でも、猫汰さんのことも俺好きだから、ちゃんと言います。猫汰さんが思ってるような、浮気とか、そういうのは絶対しないから。だから、龍児くんのこと好きになってとは言いませんから、俺と彼が友達でいること、もうすこし、ゆるしてください」
「……ゆるす、ね」
「はい。お願いします。このとおりです」
深々あたまをさげると。「ちっ!」軽い舌打ちのあと。「あーもーいーよ。わかった。俺も了見(りょうけん)がせまかったよ」がりがり、猫汰が自分の頭をかく。
「ダーリンがそこまで言うなら、多少は折れないでもない」
「ありがとうございます!うれしいです!」
「ただしね。ダーリン。俺がここまで折れることに対して、今回ばかりは見返りを要求するよ」
「え?なんでしょう?」
「ないしょ。準備はしておくから」
「はい?わかりました」
「さーて。それじゃごはんたべよ。ダーリン。
今日はトマト鍋にしてみたよー」
「わーい。おしゃれ。おいしそう」
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