「はーい。ありがとうございまーす」
『それでね。ほら、君は、まあ色々あったにせよ、結果的に、豪星くんにすごくよくしてくれたひとじゃない。
これからも、お世話になると思うひとじゃない。
だから、僕はね、僕なりに考えて、大事な息子の世話を今後もしてくれるであろうひとに、こういう気分のときに、お礼と、これからもよろしくねっていう話を、今の内にしておきたかったの。
そういう電話でした。聞いてくれてありがとうね』
それじゃあ。と、切られる前に。
「うそつき」ひとこと投げかける。相手の息の、震える音が聞こえた。
「おとーさまの嘘つき。
なんでそんな、遠回りなこと言ってごまかすの?そりゃ、よろしくっていうのは本音だろうけど。ちがうでしょ?
あとをよろしくって意味でしょ?」
『…………やっぱり聞いたんだね』
「そうだよ?ぜーんぶ詩織ちゃんから聞いちゃった。あたりまえでしょ。俺、詩織ちゃんの味方だもん。おとーさまのこと、黙ってなんてないよ。
けど、詩織ちゃん良い人だから。言っても笑ってたよ。ああそうなんだって言ってた。全部わかったまま。
おとーさまのこと待ってるって言ってたよ」
『…………』
「ねえ。実はそれも、遠回しに聞いてみたくて俺に電話したんじゃない?
なさけないねおとーさま。これじゃダーリンもあんな風になるわけだよ。
根性のない親には根性のある子供が育つんだね。わらえるよ。
ねえ。いいでしょ別に詩織ちゃんで。詩織ちゃんのなにがいけないの?おとーさまだって、詩織ちゃんのこと大好きなくせに。
俺の兄からどうして逃げるのか、まったくわかんないんだけど!!」
『…………だよ』
「え?なに??」
『僕の好きだったひとと、まったくいっしょだから、……もし、もう一度夫婦になるとしても。
もう一度、僕の所為で死なせてしまったらと思うと、こわいんだよ』
「…………」
あきれてものが言えない。ここまで根性ないのか。この人。
「ねえおとーさま。ちょっとでも気が向いたら、詩織ちゃんに会ってあげて。お願いだから。ね?いいでしょ?俺と約束して?」
『猫ちゃん。僕、今日からあの家を出ていくね。それも伝えたくて電話したんだ』
「逃げるな!!ひとの話をきけ!!」
『さよなら。
豪星によろしく言っといて』
「おとーさま!!」
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