年末に食らった特大の事件が正月にまで尾をひいている。

落ち込んだまま年末をすごして、更に正月をすぎると、こんなにへこむことを、人生はじめて実感した。

「はーーーーー……」

となりでは、スマホをながめるフリをしながら、同じようにため息をつく兄のすがた。

同じ事件を共有した身としては、そのため息に同情せざるをえない。

「なー兄貴。俺たちがこんだけ憂鬱(ゆううつ)ってことは、いまごろ龍児はどうなってんのかな……」

「さあねー……明るくないことだけはたしかだな」

だよねえ。と、お互いのため息がまざる。こんな気分であと何日も休まないといけないのか……。こういう時は、いつもは休みまくりたい学校も、良い気晴らしに行ける場所。くらいに思える。

ふたたびため息をついていると。「よっし!」兄が立ち上がって、いそいそコートを着始めた。「どうしたんだよ兄貴」よびかけると。「龍ちゃんのところ行ってくる!」はきはきした返事がかえる。

「え?いくの?龍児のうち?」

「うん!こういう時こそバカやって騒いだほうがいいんだって!
親だとさぁ、心配ばっかしちゃって、かえって龍児のきがひけるだろ?
だから、俺が行って龍ちゃんと遊んでくるよ!もちなおさないかもしれないけど、遊ばないよりマシだって!」

なるほど道理だな。というわけで、けんじも兄にくっついて、龍児のもとへかけつける。

自転車で数十分走り。

「こーんーにーちーはー!」来訪(らいほう)を告げるためチャイムを押す。すると。

「ああ……へんじ君とけんじ君か」玄関の扉を、龍児の父親があけてくれる。その顔が、げっそりやつれていた。とても、正月最中のものではない。

「龍ちゃんのお父さん、あけましておめでとうございまーす」

「おめでとうっすー」

「ああ。おめでとうございます。本年も、うちの龍児をよろしくお願いします。
ところでお前等……今ひまか?」

「うっす。ひまっすよ」

「ちょうどよかった。龍児と遊んでくれないか?」

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