「……そっか、そうだったんだ」

さっき猫汰が言っていた、心があつくなるとは、この感覚だろうか。

「……俺、ほら、あんな父親だし、母親は知らない内に死んじゃってたし。
なんていうか、うまく言えないんだけど。生活……いや、生きてるのが大変で」

「うん」

「父親なんて頼りならないから、俺が全部、俺のことをなんとかしなくちゃって。がんばってて。でも、たのしいとか、うれしいとか、そういうのが、どっかに行っちゃって」

「うん」

「でも、最近、おれすごく楽しいんだ。子供のときより、今のほうがずっと楽しい。
どうしてだろう。って、ときどき思ってて、でも理由がわかんなくって。
でも、俺、いまやっと分かった。猫汰さんがいたからだ」

「……うん」

「だから、……だからありがとう。猫汰さん」

「うん。こっちこそ」

うどんを食べきって。熱燗を飲み干して。最後に。「ねえダーリン」猫汰が立ち上がる。

「やっぱりさ、進学しようよ」

「え?」

「社会人になるのもいいよ?でもさ、社会人になるって、自分の生活を自分で支えることだから、今よりずっと時間がとれなくなるのね。
それよりも、ダーリンの好きな勉強のできる場所で、環境がゆるすかぎり、今よりたくさん遊ぼうよ。

ね?俺ともっとあそぼう。それで、さびしかった時のことを笑えるくらい、しあわせになろう。そうすればもうさびしくないよ。

だから泣かないで」

「…………」言われて気付く。おれ、いつの間に泣いてたんだろう。

「俺といっしょに行こう」

「…………」

「ね?」

「うん。いく」

とても自然に、うなずいた。



あくる日。

別の場所をいろいろ見て回り、食べたり飲んだり楽しんでいる内に陽が暮れ。

現在。

「おーくーれーるーーーーーーー!」

猫汰と駅構内で走っていた。

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