けれど、旅先の暗闇は最早観光バリエーションのひとつなのか。
「おお!」
「わあ!きれいだね!」
暗闇の中、嵐川の店先にあふれる風情の光がとても美しかった。
「ダーリン、旅館こっちだよ。チェックインしにいこう」
「はい。分かりました」
しばらく歩く事数分。「うわー、ここも綺麗」店と店の間を縫うようにして建てられた小さな庭と古い木目の美しい旅館にたどりつき、舌を巻く。
旅館に入ってすぐ、女中さんとおぼしき女性が部屋を案内してもらい、お茶をもらってひといきつく。
そのまま夕飯も頂いて、あとはお風呂に入って寝るだけかなという時分。
「ねえ。ダーリン。今からライトアップ見にいこうよ」
猫汰がちょいと手招きして、自分のスマホを豪星に傾けてみせた。
スマホの画面には、嵐川の付近でライトアップのイベントが開催されている。という記事が掲載されている。
「へえ。森林を利用した、自然と幻想のコラボレーション。ですか。おもしろそうですね。行ってみましょうか」
「いこういこう!」
荷物を軽くととのえて外に出た。途端。
「「さっむ!」」昼とは打って変わった気温差にお互いの声が被る。
「さ、寒い!やばいくらいさむい!」
父親に釘をさされたので、しっかり防寒をしてきたつもり。だったのだが、想定が甘すぎたと、今更後悔する。
「どうしよう。こんなに寒いんじゃライトアップ見るどころじゃないですね……」
豪星はこれ以上の防寒着はないし、見るからに、猫汰も同じ想定の防寒状態である。つまり、ふたりして薄着で旅行に来てしまったわけだが。
やめておきますか?と提案する前に。「ちょっとまってて!部屋にいて!」突然、猫汰が旅館の外へ走りだす。何事だと、思う事数分。
「よっしゃ!防寒できるもの買ってきたよ!」両手にあれこれ抱えて戻ってくる。買ってきたのは、厚手のコートに、ホッカイロの10枚セット。
まず、ホッカイロをべたべたにはりつけられ、最後にぎゅっとコートでくるまれる。
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