失礼なジョークはさておき。坂のきついところを昇り切ったところで。「あ、ダーリン。まってまって。俺ここ寄りたい」猫汰が豪星の服をつかんで、進行を止める。
猫汰が指さしたのは、他の店よりほんの少し大きめに作られた店だ。
「ここ、なんの店ですか?」
「スキンケア商品のお店だよー。一番有名なのはあぶらとり紙だね。
俺、基本的には詩織ちゃんの会社の商品使ってるんだけど、あぶらとり紙だけはここのメーカーのやつ使ってるんだー」
「へー」スキンケアのスの字もしたことがない豪星には、宇宙のかなたみたいな話だ。
「イケメンだと、顔の維持が大変なんですね」
「褒められてるのか失礼なこと言われてるのかよくわからないよダーリン」
「ええと、ほめてます。やっぱり、男でもちゃんとケアとかしておくと、顔の出来が変わったりするんですか?」
「うん。まったくちがうよー。俺の肌がきれいなの、スキンケア商品のおかげだろうし。肌がきれいな男ってけっこうもてるんだよ。
あ、でも、ダーリンは一生もてなくていいから、なーんにもしなくていいよ。そのままでどうぞ」
「……じゃあ俺も買う」
「いや買わなくていいって。素朴な素材のままでいてください」
「やだ。買う。俺だって一生に一度くらいはモテ期を体験してみたい」
「はあー??しなくて良いって言ってんでしょ?俺がダーリンのこと大好きってだけで一生分のモテ期でしょ??」
「オンリーワンすぎてやだ。買う」
「買わないで良いってば!」
「買う」
「良いってば!ああこら!素人のくせにそんな適当にスキンケア商品えらばないで!なにを肌につけたらいいかもわかんないくせにー!いったんおろして!」
結局猫汰のほうが折れて「ダーリンはまずここからがいいかもね」と、色々厳選してもらい、それを購入した。
選びはじめはぶつくさ文句を言っていた猫汰だったが、途中から「まあ、彼氏の出来が今より良くなることについては悪くない」と言い出し、ご機嫌になったので、相変わらず順応能力の高い人だなと思う。
猫汰も目的のものを購入すると、店を出て、またしばらく坂を上り。そしてようやく。
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