「ダーリン。ちょっとまって」猫汰に背中を止められた。どうしました?と振り返れば、猫汰がスマホをいじくりはじめる。

「あのね、この辺に美味しい団子屋さんがあるんだって。詩織ちゃんが言っててね。それを今スマホで探してるんだけど……あ!ここかな!」

スマホと町を、交互に見比べていた猫汰が、手前から三つほど向こうにある小さな店を指さした。確かに、だんごやの暖簾(のれん)がぶら下げてある。

「うん!やっぱりここだよ!ダーリン、入ってみよう」

「わかりました」

猫汰にひっぱられるまま店に入る。中は外観と同じくこじんまりとしていて、3テーブルほど、控えめに机とイスが設置されていた。

そのうちの一つに対面の形で腰かけ、猫汰はほうじ茶。豪星は抹茶。あとは「みてダーリン!お団子四種セットだって!これいっしょにたべよう!」の提案にのっかり、団子四種セットをひとつ頼んだ。

ほどなくして。

「わー!おいしそう!」

「すごい!お団子が思ってたより小さい!たべやすそう!」

茶碗がふたつ。プレートがひとつ机に置かれ、中身を二人ではしゃぎながら見比べる。二人であれこれ言い合いながら、団子を上手に分け合うと。

「いただきまーす!……うわー!俺、白だしのかかった団子なんて初めて食べるよダーリン!」

「猫汰さん!こっち!こっちの真っ黒な団子もおいしい!味噌がかかってる!」

「ほんとだ!美味しい!あ、みてみてダーリン、こっちのおだんごは一味がかかってるよ!おもしろいね!」

団子に花が咲きつつ、ぺろっと完食。お互いのお茶を飲み干すと、「はー!」思わず感嘆がこぼれた。なんとも、幸先の良い旅のスタートである。

勘定を済ませて外に出ると、バス停付近に戻り、脇の坂道にはいって今度こそ志水寺に向かう。ここを真っ直ぐ昇れば志水寺にたどり着くそうだ。

急勾配の坂は旅行客が上から下から歩き、坂の両脇には、ところせましと店が並ぶ。あまりにたくさんあるので、どこを覗いていいのか迷うほどだ。

「みてみてダーリン!」目が躍っていた豪星の傍で、猫汰が声をあげる。ふりむくと、真隣の店に、彼氏が顔をつっこんでいた。

36>>
<<
top