「おーはーよー、ダーリン」豪星の気配をめざとく察知した猫汰が、寝室に入りカーテンをひく。真昼の陽ざしが目にしみた。

「すみません。こんな時間までぐうたら寝てて……」

「いいんだよー。それより、ダーリンごはんどうする?」

「うー。いや、まだいらないです」

「だよねぇ。じゃあさ、酔い覚ましじゃないけど、今から着替えて映画いかない?」

映画か。しばらく見てないな……。せっかくだし行こうかな。

「俺、見たい映画があるんだー。ちょうど1時間後にあるから、行かない?」

「行きます」

「やったねー!じゃあきがえてきがえて!」

どこに用意しておいたのか、豪星の服(最近は猫汰の家に常備してある。至れり尽くせりだ)をもってきた猫汰が着替えをせかす。

あわてて着替えて、財布だけもって映画館へ向かう。猫汰のマンションからバスで20分ほどのところにある、映画館とゲームセンターとボウリング場がくっついている施設だ。

映画館に入って、受付を済ませると、二人でチケットを持って3階に上がる。猫汰が見たいと言った映画のタイトルは、「過ぎ去りし愛のカナタ」だ。どっかで見た事あるようなないような題名である。

「妻子持ちのサラリーマンと、女子大生の恋なんだってー」

ようするに不倫か。

「最近、その手の話ばっかり聞くような……」

「うーん。多分、やってる本人たちも、それを見てる側も盛り上がるんだろうね。
背徳と恋愛は、人間というコミュニティで、最強の関心ごとなんだよ」

うーん。俺にはよくわからない。

首をひねったままポップコーンひとつとジュースをふたつ買い、指定されたスクリーン場の扉を開けてふたり並んで座る。

20分ほど番宣が流れたあと、大音量の音楽とともに本編に移行して……。

一時間40分後。

いやー。やっぱ俺にはわかんないわー。と、残りのポップコーンをぼりぼり食べながら思う。


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