どこの常識だ。辞書持ってこい。

「聞いてんのか」

「痛い痛い!すみませんでした!」耳を思い切りつねられ、悲鳴をあげる。もーやだー!おうちかえるー!

「ふん。まあいいけど」ようやく落ち着いたのか、一度席を立った猫汰が、コーヒーと、フラペチーノをもって戻ってくる。

コーヒーは自分用、フラペチーノは、どうやら原野用に買ってくれたらしい。

「あ、金……」財布を出そうとするも「いいよ。おごってあげる」珍しいことを言われ、仰天する。なに?今日は雨か槍でも振るの?

「あと。これもあげる。お土産」そう言って差し出してきたのは、かわいらしい黒猫の人形がちょこんと乗せられたスチール缶だ。

「これ、三匹の猫ちゃんのやつっすよね?」首をかしげると、「そうそう。あのね、この前ダーリンとラブリーパークに行ってきたの」猫汰がころっと、態度を変えてしゃべり始める。相変わらず恋人の事だけしおらしい人だな……。

「ダーリンとラブリーパーク初めて行ったんだけど、ダーリンラブリーパークに行くの初めてだったから、もー着くなりダーリンたら超はしゃいじゃって!それがねもうほんと天使みたいでね。いや違うな、エンジェルだな。良い、原野。俺が思うに、天使っていうのは二次的な表現でね」

どうでもいい。

「で、エンジェルっていうのはそこからもう少し生身の人間がこんだ、いわば三次元に進化した表現であって。つまり何が言いたいかって言えば、俺の彼氏がエンジェル過ぎて終末が近いっていうか」

かえりたい。

「それでね。そのエンジェルが。おっと間違えたダーリンがね。そのあと青猫ちゃんの耳カチューシャをつけたわけですが、これがね、俺の心臓を殺しにかかるクオリティでね。存在が伝説になってるっていうか、桃源郷とは個体で完成するものだという法則がそこに爆誕したっていうかね」

……あー。このお土産、中身が珈琲スティックなんだ。

ふたについた人形のつくりがこってて。かわいー。さすがラブリーパークだなー。

……はー。

猫汰の本題からずれたのろけを聞き流す事、1時間。

「というわけで、ラブリーパークめっちゃ楽しかったんだー!」漸く終わりを迎えたころには、買ってもらったフラペチーノが根こそぎなくなっていた。

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