「ん?やっぱりどうかした??」

「いえいえー。なんでもねっす」

「そう?」

お互いの顔から視線を外して、自分も、弟も、先輩も同じ机でがりがりと勉強を続ける。

時々、先輩たちに尋ねながら理解がスムーズに進んでいくというのは、中々に気分のよいものだった。

学校のように気だるくもなく、拘束もない。かといって、自宅のように自由過ぎず、誘惑もない場所で、かつてない集中力が続いた。だから。

「―――――――うわ!!」スマホの呼び出しが突然なり始め、慌てて点灯させたとき、はじめて、時刻が8時をまわっていることに気付いた。

「あれ!?もうこんな時間!?おいけんじ!母ちゃんから電話きたぞ!」

「え!?あれほんとだ!8時過ぎてる!」

二人で慌てるも、「あ、やっべ。電話切れちゃった」通話を押す前に、呆気なく通知が切れる。

「どーしよ、かけ直す?」

「いや、大したことじゃないし、とりあえずライソだけしとこうぜ」

「そーだなー……」

母親に「先輩の家で勉強してた」という内容でメールを送ると、すぐ、「晩御飯はどうするのか」と返ってきた。そこでようやく、空腹を思い出す。

「腹減ったな……」けっきょく、先輩から買ってきてもらったお菓子も食べず終いだ。

「そろそろ帰るか」

「そうするかー」

「帰るの?」隣で、こちらのやりとりを眺めていた豪星先輩が、帰宅の気配を感じて腰を上げる。

「はい。帰ります」

「すんません長々居座って」

「ううん。構わないよ」

「明日もまた来ていっすか?」

「出来ればテストまでお願いしたいんすけど」

「ああ、いい」

よ、と、先輩が言い切る前に。「だーめ」廊下から猫先輩がひょっこり顔を出す。そのまま、「テスト前三日間くらいは自分ちで頑張りな」しっしと、追い払うようなしぐさを見せる。

「自分ちで勉強できないでどうするんだよ」

「えーでも」

「俺ら、ウチじゃこんなにやらないだろうしなー」

47>>
<<
top