フローリングの冷たさが肌に気持ちいい。
多分、けんじも同じことを思っているのだろう。眉をしかめながら、しかし、うっとりと床にはっていた。
しばらく、ごろごろして気を落ち着かせた後。
「……楽しかったなー」弟が、おもむろに言い放つ。
「そうだね」異論はない。とてもとても、面白い旅行だった。
「俺、龍児があんなに料理うまいなんて知らなかったよ」
「ねー。あと、龍ちゃん、自転車早かったね」
「なー。あいつ運動めっちゃ出来るよな。部活入ればいいのに。もったいね。まあ、そこが龍児らしいけど」
「あの勝負、普通にやってれば龍ちゃん圧勝だったよね」
「だな。まあそこはさすがイケメン先輩っていうか、いじきたねぇっていうか」
「猫先輩に論破されたのは腹立ったなぁ」
「だな。ぶっ殺すぞこの野郎って思ったよな」
「けど、バレーのとき、猫先輩いい気味だったね」
「あれはスカッとしたよな。イケメン先輩ったらな、彼氏がまったくバレーに使えなくて、珍しくおろおろしてたからな」
「内心、ちくしょう!って思ってただろうけど、惚れた弱みで何も言えないんだよね、猫先輩って。あの時は豪星先輩さまさまだったね」
「せっかく、龍児が勝ったんだから、最後くらい二人きりにしてやりたかったなー」
「まあ、めっちゃ二人の逢引のぞき見してたけどね。俺ら。まさか猫先輩が割り込んでくるとは思わなかったけど」
「そうそう。万が一の可能性もあるから。って、へんじが持ってったトランプがほんと役に立ったよな」
「ねー。寝ずの○番勝負になったよね。猫先輩って、神経衰弱とか7並べとかめちゃくちゃ強いから、焦ったけど、けっこう好戦したよね俺ら」
「ま、結局トランプもどっちつかずな勝敗になったけどなー」
「けど、楽しかったね」
「うん。楽しかったな」
ひとしきりしゃべり終え、はあと息つく。しばらく、天井を眺めて黙り込んでいたが。
「なあ、へんじ」弟が呟く。
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