「………」頭上から、猫汰の謝罪が矢次に落ちる。

「嫌わないでダーリン俺ダーリンに嫌われたら生きていけない!!ダーリンに嫌われるなんて死んでも生まれ変わってもむりぃいいいい!!」

「…………」なんでこんな事になってんだっけ。

あーそうだ。この人にうちのAV見られたんだった。

そんな事で、全速力して倒れて死ぬほど謝られてんのか。

アッホくさ。

「……おなかすいた」脱力すると、突然空腹を覚えた。思わず出た独り言に、「ちょっと待ってて!」豪星にしがみついていた猫汰がすっくと離れ、数分後。「ダーリン!これ!」戻ってきた猫汰が、あおむけになった豪星になにかを差し出してきた。茶色の紙袋だ。

「なんですかこれ」けだるげに問うと、ごそごそ、中身を取り出した猫汰が、「蒸しパン!」むっちり太った蒸しパンを差し出してくる。豪星をダイエットに落とし込んだ、悪魔のおやつだ。

「休憩になったら……いっしょに食べようかなって思って、その、昨日作ってきたんだけど……」

「…………」

「ダーリン、蒸しパン大好きみたいだから……えっと、良かったら、どうぞ」

「…………」蒸しパンめ。なんというあざとさだ。

しおれる猫汰の隣で半身を起こし、無言で紙袋をひったくる。「あ」と驚く彼を無視して、中身をひとくち、むしゃむしゃほおばる。

うわあ。むかつくほど美味い。

「……もうしないでください」ぼそっと呟くと、となりの雰囲気が明るくなる。「うん!もうしない!絶対しないから!」蒸しパンを食べる豪星の腕に猫汰が絡みついてくる。ふりほどきはしなかった。

「あっれー?なにしてんのこんなとこで」

蒸しパンが終わろうとする直前、中庭の向こう側から呼びかけられた。誰かと思いきや。「……父さん」身内だった。

父親は三者面談の時と違い、黄色のパーカーにハーフパンツの姿で、いつも通りのラフ加減だ。

「やっほー、豪星くん。猫ちゃん」

「おとーさまこんにちわー。遊びにきたの?」

「そうそう。豪星くんの文化祭を見たくてきたよー。……っていうか、二人して面白い恰好してるね」

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