取り残され、ぽつねんとした豪星は……さてまあ不穏なことはそっと脇によせて、とりあえず帰り支度でも始めるかと、机の隣から現実逃避という名のカバンを取り出した。

そのとき、不意に、夕暮れ前の西日が手元にかかる。

「…………」

この陽が暮れれば、文化祭まで、あと半月とすこし。



来たる文化祭当日。空は晴天。適度な風と湿気に恵まれ、まさに行楽うってつけの気候のなか、朝の9時より開会式が行われた。

各学年クラスが一同に集まり、挨拶と注意事項説明を終えると、さっそく、教室に戻って準備を始める。

とはいえ、前日までに教室の改装は終えているので、あとは給仕用の衣装に着替えるだけだ。

猫汰が先月から、手ずから作成した特製のメイド服、と、ラブリーパークで買った青猫ちゃんのカチューシャを装着するなり「ひぃいいいいいいいい!!」隣から悲鳴がこだまする。

呆れつつ振り返れば、スマホを片手に身体ごと傾いた猫汰が、連写で豪星を撮りまくっていた。

「かわいいいいいいいぃいいいい!!やばいぃいいいいいいいいいい!!」

「猫汰さん。あの、衣装合わせのときも撮りまくってましたよね。スマホのデータこと切れたとか言ってましたよね……」

「データのカード買い直したああああああああ!!あああああ俺の彼氏がかわいいいいいいいいい!!」

無駄に用意周到だな……。

「やばいやばい動画取る動画!!ダーリンちょっとくるってやって!!スカートのすそちょっともってくるってやって!!」

「はいはい後にしましょうね。先に着替えましょうね」

「やだぁああぁああああ!!メイド猫のダーリンとるーーーーーー!!」

「……俺も猫汰さんのコスプレ、もっかい見たいなー?」

「よしわかった。すぐ着替えるね」

はははー。ちょろいなー。

握りしめたスマホをいったんしまい込み、猫汰も衣装に着替えること、数分。

「おお……相変わらずマニアック」思わずこぼれた呟きが、猫汰の手前に落ちる。

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