「なになに?猫さんらしくないな」

「……だって、俺、ダーリンにずっと我慢させちゃったから」

「え?なにが?」

「料理。ダーリンてば、ほんとはシンプルな味付けの方が好きなのに、俺ってば、まったく気づかずに、ずーっとはりきった料理ばっかり作っちゃって」

「お?なんだ豪星。やっぱお前あれ苦手だったのか」カレンダーから戻ってきた光貴が、手をふきながら笑う。

「だと思った。最初会った時から、なんとなーく様子がおかしかったもんな」

「ちょっとみつ!気づいてたんなら言ってよ!」

「いやいや。他所様の恋人に口なんざ出さねぇよ?」

「なにそれ!気づかいと横やりは違うんだからね!」

「まあまあ」春弥がなだめるかたわら、「……あの。それについてなんですけど」片手を上げる。三人の視線が、一気に集中した。

「猫汰さん」真剣なまなざしで見つめると、「な、なに?どうしたの?」猫汰がおろっとうろたえる。

「いえ。大したことじゃないんですけど……いや、大したことかな?まあいいやどっちでも。あのですね」

「う、うん?」

「その。お弁当なんですけど、週に一回で良いんで、前と同じような弁当作ってください」

「ちょっと待て」光貴に肩を掴まれる。

「おい。豪星。目がやばいぞ?大丈夫か?」

うん。分かってる。自分でもやばい事言ってる自覚はある。

自覚がある上で言っているんだ。だって。

「なんか。最近の猫汰さんのお弁当、美味しいんだけど……物足りなくて」

「おい豪星。どこを見てるんだ。こっち見ろ」

「口の中で花火のあがらない猫汰さんのお弁当なんて、猫汰さんのお弁当じゃないっていうか……」

「落ち着け豪星!戻って来い!」必死に肩を揺さぶる光貴のそばで、「ダーリン……」猫汰がおずおず、口を挟む。

「いいの?シンプルな方が好きなんでしょ?」

「そうなんですけど……いやもうなんか、貴方が作る料理、俺、ぜんぶ好きみたいですよ」

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