「ひやけがいたいぃ……っ」日のとっぷりと暮れた、午後22時。
マンションに帰宅そうそう、ベッドに転がりうめく猫汰に「猫汰。日焼けのあとはきちんと処置しないとだめだよ」兄が上から注意を促す。
「ほら。起きて。ぬってあげるから」そう言ってカバンから取り出したのは、兄が取締役をしている化粧品会社の日焼け用化粧水だ。
兄は、綿にそれをたっぷり含ませると、しぶしぶ起き上がった猫汰のうでにぴたりと押し当てた。
「ぅあ、」痛気持ちい感覚が、全身をかけめぐる。
「しみるかな。ごめんね猫汰。でも、痕になるよりはいいよね」
「うー……、しおりちゃんは全く焼けてないね」
「ああ。僕はほとんど日陰にいたからね。日焼け止めもしっかりぬってたし」
俺も塗ってたんだけど、まあ、自転車こいでバレーなんてしてれば、なに塗っても陽ざしを止められないよね。
「そういえば、ダーリン俺より真っ赤になってたなー」
「ああ。そうだったね。たぶん、彼は日焼け止めを塗らなかったんじゃないかな」
「うへぇ。あの炎天下で日焼け止めぬらないとか、あとで地獄じゃん。ダーリンかわいそー」
「いや。見たところ他の三人も塗っていなかったみたいだから、みんな今頃のたうちまわってるんじゃないかな」
「ははは。あいつらはざまーみろ」
「こら猫汰。口汚いよ」化粧水をあてていた手を止め、兄がぴしゃりと言い放つ。
「はい終わり」化粧水をふき終わった兄が、綿と容器を片づける。その間、再びベッドにもどってごろごろ寝転んだ。
エアコンの風で冷えたシーツの感触が心地い。ぎゅっと頬をあてていた時、ふわり、愛おしい人の香りを思い出した。
ラブリーパークから戻った日、ベッドにうずもれたら、そこで寝ていた恋人の香りがした。
あの時は、そこにいない人を想って切なくなったものだ。さっきまで、ほんの一時間前まで、ずっといっしょにいたというのに。
「…………」
日に日に、自分がおかしくなっていく。
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