殺風景な工場地帯から、突然、観覧車の頭が見え始めた。おお。と唸る豪星の隣で、猫汰がスマホを取り出し、撮影を始めた。「こっちむいてー」と言われたので、振り向くと、すかさず一枚収められた。
観覧車が過ぎたあたりから、景色が瞬く間に変化していった。こちらの心境が追い付かないでいる内に電車は止まり、下りても呆然としている内に、去って行った。
「い、いきなり雰囲気が変わった……」構内も雰囲気が違う。キャラクターや華やかな模様がところどころに飾られていて、これはたしかにラブリーだ。
「ちょうど9時前だね。すぐ開園するから、行こうだっ……豪星くん!」
「は、はいっ」手を引かれて構内を通り過ぎ、出入り口を過ぎたあたりで、いよいよ、ぽかんとしてしまった。
いま、豪星の目の前には、大きな皿に豪星より大きなキャラクターたちが、ところせましと並んで乗せられている。その横では、見慣れたキャラクターの着ぐるみが、何匹も歩いてはしゃいでいる。向こうに見える建物も、三角屋根にパステルな色合いで、目に鮮やかだ。見上げるほど大きな飾りや雰囲気に圧倒され、「すごい……」知らず感嘆がこぼれた。
「すごい、すごい!よくわからないけどすごい!すごい!!」
「あは、豪星くん。感動したの?語彙がなくなってるよ」
「だって!すごいですよ!あれ!あれなにかな!」
「豪星くんかわいいー」とつつかれるも、全く眼中に入らない。
猫汰からチケットを受け取り、ゲートで荷物の検査を受けてから、いよいよ中に入る。
園内は、360度見渡す限りの幻想空間で、行き成りゲームやテレビの世界へ放り込まれてしまったような錯覚を受けた。同時に、引きずり出されるような興奮に襲われる。
「わー!すごい!」思わず駆け出し、向こうを覗こうとした豪星を「はいちょっと待って!」猫汰が掴んで引き止める。「ぐえ!」勢いこんでひしゃげた身体を、ずるずる、ひき歩かされた。
「さー、はしゃぐ気持ちは分かるけど、まず荷物預けるよー!」
「う、う、ぐえ、はい。分かりましたので手を離してください……っ」
「あ、ごめんごめん」今気づいた。と言った風に手を離す。その顔が上気しているのを見て、彼もはしゃいでいるんだと気付く。
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