木で出来た塀(へい)に囲まれた露天風呂は、貸し切り状態になっていて、そそくさ、中へはいると、一息はいて空を見上げた。
「月が綺麗だね」隣に同意を求めると、こくこく、相手がうなずく。
「外で風呂入ったの、俺、初めて」いまだ蒸気した顔で、龍児が呟く。
「そうなんだ」
「うん」
「俺は初めてじゃないけど、あんまり入ったことないよ」
「そうなのか?」
「うん。そう。ちょっとだけお揃いだね」
「………ん」
露天風呂の中で、他愛のない話をし、のぼせ上がる前に脱衣所へ行くと、民宿の浴衣を借りた。
龍児は、サイズが大きいのかすそが余っている。が、以前に比べて、背も体格もがっしりしてきた事を思えば、あなどれない。筋トレしようと心に決める。
風呂を出ると、龍児の「あそこが見たい」という要望に応えて、民宿の隣で経営している土産屋へ寄った。閉店間際らしく、客足はなく、閑散(かんさん)とした雰囲気だ。
土産屋で、豪星は大袋のせんべい、龍児はタコの干物が入った炊き込みご飯の元を買う。「龍児くん、それでいいの?」意外な選別を問うと、「うん。つくってみたい」答えまで意外だった。
「そっか。うん。龍児くん最近、料理が上手になったもんね」
「つくったら、食べるか?」
「え?いいの?うれしいな、食べたい食べたい」今日の天ぷらを思い出して、ほくそ笑む。
「けど、友達がみんな料理上手で、俺、出遅れてるよね。俺もちょっと、料理がんばってみようかな」
昔から、父親の影響で、レンジで出来るものか、封を開ければ食べられるものか、買えば食べられるものばかり食べている。手料理がこんなに美味しいのだと知ったのは、ごく最近の話だ。
「じゃあ、いっしょに作るか?」
「え?……ああ!そっか、その手があったか。龍児くん頭良いね!」
「ほ、ほんと?俺、頭いいか?」龍児が一気に顔を赤くさせる。ほんとほんとと頷けば、ますます、嬉しそうにほほ笑む。
「それじゃあ、夏休み中にまた遊びに行くね。いつがいいかな、なんなら、明後日くらいに」
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