「――――やだぁ!」猫汰が、子供じみた声でわめく。その腕を詩織が掴んで、引きずり始めた。「やだやだやだ!詩織ちゃんのバカ!はなしてー!」暴れる猫汰を押さえつける姿は、はたから見ても壮観だ。さすが兄だけあって、弟より力が強いらしい。
「それじゃあ君たち。今日は弟と遊んでくれてありがとう。僕たちはこれで引き上げるから」
「引き上げないでよ詩織ちゃん!ちくしょう!おぼえてろー!」
ずるずる、猫汰が引きずられていく。
「あの捨てセリフ、様になってるね」
「ほんとな」双子が顔を見合わせて、から、こっちに振り向く。
「それじゃ、優勝おめでとー!ってことで、ぱーっとやりたいところっすけど。ね」
「うん。そうだな。せっかくだし二人きりにしてやるか」
「あーあ、トランプとか持ってきたんだけどなー」
「龍児、がんばったしなー」
双子が、バレーの器具を片づけ脇に抱えると、「それじゃ!」お互いの手を振る。
「お二人さん、お疲れさまー。俺たち、自分の民宿に行くんで、あとは二人でごゆっくりどうぞー」
「じゃあな龍児、先輩、また明日ー」双子が去って行くのを眺めた後。
「俺たちも民宿に行く?」龍児に了解をとると、こくこく、相手が首を振った。
踵をかえす傍ら、ふと、砂浜に備え付けられた時計を見上げる。
気付けば、もう、時針が5時をまわっていた。
*
龍児と二人、民宿「あるか」に戻ると。「あら。おかえりなさい」民宿のおばあさんが帰りをねぎらい、水着のまま、浴場へ行くよう促された。ひとっぷろ浴びて綺麗にした後、食事を出してくれるらしい。
龍児と連れたち、「男風呂」「女風呂」と書かれた古風なのれんまで辿り着くと、他の客と共に男風呂へ進む。
水着を脱いで、備え付けのタオルを借り、中に入って「わ!」声を上げる。
浴場の内装は、全面タイル張り。大浴場がひとつ、サウナがひとつ、洗い場が複数、露天風呂がひとつで構成されていた。シチュエーションに興奮がのぼる。
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