「あ、まさか」へんじが眉をしかめて、顔を上げる。目線の先は、傍の民宿の、更に向こうだ。
「どうしたの?へんじ君」
「いや。猫先輩、たぶん……」
「ついたーーーー!」へんじがしゃべりだす前に、猫汰が目の前で到着する。しばらく、自転車の上で息を切らせたあと、「りゅーちゃんは!?」先着の確認をとる。
「まだ来てませんよ。イケメン先輩の勝ちっす」
「しゃあ!」叫んですぐ。「だーりーん!おれ、勝ったよー!」胸に飛び込んできた猫汰を受け止め、「おめでとうございます」賛辞をのべると、死ぬほど嬉しそうに抱き着かれた。
「はー!めっちゃ疲れたけど、りゅーちゃん負かしてダーリンに褒められるなら、悪くないね!」
「ちょっと。先輩」勝利に酔いしれる猫汰の前で、へんじが眉をしかめる。
「あんたずるしたでしょ」
「え?ずる?」思わぬ響きに、目を見張る。
「は?ずるなんかしてないし」猫汰が鼻で笑う。
「いやいや。ずるでしょ。あんた、島をぐるっと周回せずに、真ん中を突っ切ってきたでしょ?」
「え!」「ああ!なるほど!」けんじと顔を見合わせる。
「それなら、龍児のほうが早くても、先に到着出来るってわけか。
けど、この島、真ん中がすごい坂になってて、のぼるの超しんどいはずだけど……」
もはや執念だな。
「先輩。反則は負けっすよ」
「何言ってるの?あらかじめ、審判役のお前が、自転車乗ってここからスタートして、どっちが先に三回ゴール出来るか。って規定した訳だよ?俺は、規定にのっとった勝負で健勝したわけ。
後だしじゃんけんしてるのは、お前だからね?」
「うわ。むかつく言い方だな。相変わらず、きったねぇ。フェアプレーが出来ない病気にでもかかってんのかよ」
「だから。フェアプレーだって言ってんじゃん。お前らの知能の低さを、俺の所為にしないでくれる?」
「ぐっ!」「めっちゃむかつく……!」双子が同時にうなる。論破されたようだ。
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