「…………」本当だ。前はもっと下にあった目線が、随分近づいてきている。何時か抜かされるかも。とは思ってたけど、これちょっと速くない……?
「ごうせー」龍児が、きらきらした目で見つめて来る。
「うん。なにかな」笑顔の隣で、冷や汗をかく。
「俺、ごうせーより大きくなれるかな!」
「ううーん……」なんと答えたらよいものか。
なれるよ。とは言えない。すぐには抜かされたくないから。
でも、ならないでっていうのも……無理だな。この速さじゃ。
「……き、期待してるね?」
「わかった!がんばる!」
「ははは………」ほどほどにお願いします。
*
時刻丁度に高速船が到着し、券を見せて乗り込むと、「前方は大変揺れますので、なるべく後方座席におかけください」の注意点に従い、後部座席に腰かけた。
二分程して、高速船が出航すると、船が大きく揺れ始めた。その勢いたるや、アトラクションも真っ青だ。
「すげー!海だ!」窓際に座った龍児が、外を覗いて叫ぶ。「見せて見せて!」豪星も乗り出すと、ガラス越しに映る青緑の海を眺めた。
「おお!すごいね!船のいきおいで海に泡がたってる」
「ごうせー!あれ!イルカ!?」
「え!イルカ!?どこどこ!?」
「こらお前ら。もうちょっと静かにしてろ」興奮ぶりを見かねた須藤から注意が飛ぶ。しぶしぶ戻るも、心臓は鐘を打ったままだ。
乗船してから15分。船は島に到着し、その場で停船した。降船するなり、磯(いそ)の香りが鼻につく。それが余計に、豪星たちの興奮をあおった。
「すごいね龍児くん!海だね!」
「海!」
「おおいお前等。はしゃぐ前に民宿行くぞ」須藤に再び釘を刺され、背について歩くと「民宿あるか」という宿につく。
「これは……民宿はあるかないか。っていう、シャレの名前ですかね」
「どうかなー。どっかの外国の字をもじってきたって可能性もあるぞ。ま、そんなことより、中で荷物預かってもらうぞ」
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