車内では、気の早い龍児がすでにお菓子を食べ始めており、既に、二つ三つ、袋が空になっていた。

隣に座るなり、「食べるか？」ドーナツを差し出される。それも、既に半分食べつくしているようだ。

「ありがと。ひとつもらうね」

「ん」

「おい龍児。朝から食いまくってんなよ。持ってきた菓子全部食べつくす気か」

須藤がバックミラー越しに、龍児とその後ろを睨む。振り向くと、荷物置き場に大量のお菓子が詰め込まれていた。

「こいつな。お前とまた旅行するのがうれしくて、昨日寝てないんだぜ？」

「ああ。またですか」二度あることは三度ある。だな。

「だって、楽しみだった」龍児が珍しく、すねずに頷く。余程うれしいらしい。

「ごうせーにもらったマグカップも持ってきた。向こうで使う」

「え？持ってきたの？龍児くん。食器は多分、民宿の人が用意するから、あんまり使えないと思うよ？」

「………そうなんだ」

「……うーん」頭をぐりぐり撫でたくなるのを押えて、ドーナツをほおばる。

可愛いなぁ、俺の弟。……じゃないけど。

車に運ばれること、１時間強。辿り着いたそこは、一面の海景色だった。

「うわー！」「おー！」後部座席から飛び出し、声を上げる豪星たちの隣で、「槍崎港（そうざきこう）は久しぶりに来たな」須藤が煙草に火をつける。

「槍崎港って、あそこの建物ですか？」左手奥にある、古風な建物を指さして問う。

「そうそう」須藤がうなずき、煙を吐く。

「あそこから、高速船（こうそくせん）に乗って三択島まで行くんだよ」

「こうそくせん？ってなんですか」

「すごく速い船。ってことだよ。此処から１５分くらいで向こう着くぞ」

おお。１５分か。確かに早いな。

早速、中に入って券売機に立つ。

「おい沙世。財布くれ」須藤が手を出し、「はいはい」沙世が長財布を取り出す。「俺の分の代金……」を、渡そうとしたが、「いらねーよ」「いらないわよ」同時にかわされてしまった。……いつも有難う御座います。

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