「猫汰さんのこと?」
「うん」
「そうだよ。猫汰さんね、何回も行ったことあるから、乗り物とか食べ物とか、園内のいろんなこと知ってて、ついていくだけで楽しかったよ」
「そっか……」
先輩が彼氏をほめた瞬間、龍児がしょげた。分かりやすい反応だ。
「先輩、龍児がしょげてるのに気付いてねぇな」
「あの人も分かりやすいよね」
龍児はしばらく、伏目がちでいたが。
「うん。お前が楽しかったのなら良かった」顔を上げて、言い切る。
「あそこで、良かったなって言えるところが、龍ちゃんかっこいいよね」
「だな。ああいうところ、ほんと男らしいよ。
もしこれがイケメン先輩だったら、相手を地獄の底までなじり倒すぞ。……お。先輩帰った」
「よっしゃ。それじゃ、龍ちゃん励ましてやりましょうかね」生垣から飛び出し、龍児の元へ駆けだす。
「りゅうじー!」
「龍ちゃーん!」
叫んで飛び込むと、振り向いた龍児に眉を顰められた。
この落差!たまらない!
「………なんだよ」へんじとけんじの登場に、龍児がつぶやく。嫌そうな顔を隠しもしない。
「遊びにきたよー!」
「くるな」
「つれないな龍児!そこがいいけど!」
「うるせぇ」
「……ところで、なに持ってるの?」
良く見ると、片手になにやら握りしめ、その先から水を放っている。
「水」うん。それは分かってるって。
「水で何してんの?」
「打ち水」
「え?うちみずってなに?」
「うるせぇ」
「龍児ー、説明放り出すなよ」
「うる」
「なんだお前ら、打ち水しらねぇのか」龍児の目がつりあがるうちに、横から父親が現れる。
「あ、お父さん」
「ども。こんにちはー」
「おう。こんにちは。今スイカ切ったから食ってくか?」片手に小ぶりなスイカを乗せて、にっこり促す。
31>>
<<
top