「分かってる。すみませーん。これ、印字とかってできます?」
指輪売り場を専門に取り扱っているらしき、片眼鏡をつけたおばあさんが、ふっと顔を上げて微笑む。
「ええ。出来ますよ。なんとお書きしますか?」
「FROM GOUSEI WITH LOVE(豪星より愛をこめて)で、後ろに今日の日付を……」
「ね、猫汰さん。ちょっと。従業員さんの前であけすけすぎるのは……」
「なんで?別にいいじゃん。恋人なんだし」
「構いませんよ。最近は男同士の方で指輪を買っていかれる方も多いですからね」
「……多いんだ」
「じゃ、豪星くんの分も買っておく?」
「……いえ。止めておきます」
「遠慮しなくていいのにー」
「はははは。いえいえ。なんのなんの」
10分で印字が終わり、受け取った指輪を早速箱から取り出して、右手の薬指につける。
ラプリーパークのロゴと、豪星の文字の入った指輪を眺めていると、うっとり、とろけそうになる。
「ねー豪星くん、知ってる?右手の薬指は恋人との愛を深めて、左手の薬指は伴侶との愛を深めるんだって。はやく結婚したいねー?」
「ははは。まあ、法律が改正する日が来ることでも願ってましょうか……」
「大丈夫だよー。俺、籍は海外で構わないし」
「そうですか……あ、猫汰さん」
「うわ!」いきなり引っ張られて、上体が傾き、顔が彼氏の胸にあたる。ちょうど、豪星が、身体ごと猫汰をかばうような恰好だ。
思わぬ態勢に、「ひえええ!」全身が硬直する。
「指輪ばっかり見てると人にぶつかりますよ。ほら、前向いて」
「う、うん。うん!」
やだ!豪星くんに抱き寄せられてる!?なにこの態勢!?
なんなの豪星くん!恋人庇うとか、男らしくなっちゃって!
溶ける!とけて消えちゃう!
「ま、指輪はさておき、そろそろご飯を食べにいきましょう。俺、おなかすいちゃいました」
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