机から立ち上がり、今度こそ物理的に詰め寄ってきた猫汰が、ちょっと理解が出来ない、みたいな風に、ほお骨のあたりを収縮させた。

一体どうしたんだろうと、今度は豪星が疑問に思う。その頬に、猫汰が、そっと触れてきた。

長い指が、すっと豪星の耳まで辿り着くと、突然、ぎゅ!と握られる。思わず、いで!とうめき声を上げたが、力が緩むことは無かった。

「ダーリン、昨日誕生日だったって、どういうこと」

いや、どうもこうも、言ったとおりなのだが。

「……………なんで、俺には教えてくれなかったの」

猫汰が、溜めた息を一気に吐いたような声で小さく呟く。その声色に怒気を感じて、ふと、昨日、父親に「怒られるぞ」と言われた事を思い出した。

あのときは、そんな事でと笑っていたものだが、実際に的中して、しかも目の当たりにすると、情けなくも当てられてしまう。

おろおろと、どう謝ろうかと揺れる豪星の顔を、猫汰がジト目でにらみつけてきた。

「いや、聞かれた事が無かったので…」

「は?なにそれ?りゅーちゃんには聞かれたから教えたっていうの?」

「え、ええと、龍児君はただ成り行きで伝わって…」

「成り行きってなに?ねぇ、なに?」

「いや、その、…すみませ」

「なにに謝ってんの?」

うん。何に謝ってるんだろう。でも、猫汰がかなりわかりやすく怒っているので、とりあえず謝るしか術が無かった。

けど、普通誕生日を知らなかっただけでこんなに怒ることかな?豪星には、いまいち解らない感性だ。

解っていたら、そもそもこんな詰め寄られ方はされていないだろうけど。

しかし、この状況、どうしようかな。あまり怒らせても面倒なので、早急に鎮火して欲しい処なのだが…。

そう思った時、まるでタイミングを読んだかのように、凄く乱暴な音で教室の扉が開いた。

何時の間にか、豪星と猫汰のやりとりを眺めていたらしいクラスメイト全員が、虚を突かれたように、開いた扉の方に視線を向けた。

当然、豪星も猫汰も、扉の方に振り返る。そこには、龍児が無表情で立っていた。

相変わらず、堂々とした空気の読めなさで、静まりかえった教室の真ん中を突っ切って歩く。

その途中で、お目当てであろう豪星の顔を見つけると、ぱっと、顔に彩りを見せた。

そのまま、「豪星!」と、猫汰が横目でにらみつけているにも関わらず、臆せずに近づいてきた龍児だったが、ふと、何かを思い出したらしく、浮き足を途中で止め、ごそごそと、自分の制服を弄り始めた。

それから、手を拳にして、豪星の元へ付きだしてくる。

「手ぇ出せ」と言われたので、反射で手を出すと、豪星の掌の上に、ぽとりと、何かが落ちてきた。

小さなキーチャームだ。豪星が、アパートの鍵に何時もつけているもの。

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