「あ!」誰かの声と声が重なる。無防備にさらされた龍児の鉢巻きを猫汰が掴む。かと思いきや、寸でのところで空振った。どうやら気配だけで避けたらしい。
「すごい!龍児君!…あっ!」
龍児がよけた拍子に、態勢を崩した猫汰が前のめりに倒れた。そのまま傾き、地面に放り出されそうになる。刹那。
「……くそが!!」身体を無理に捻った猫汰が龍児の服をわし掴み、そのまま、大きな音を立てて地面に転げ落ちた。
不意打ちを食らった騎馬たちが、落ちた二人の騎手を呆然と見下ろしている。
「え、こ、これ、どっちが勝ったことになるんでしょう…?」
「うーん。どうだろう。ほとんど同時に落ちたみたいだからね…あとは鉢巻きかなぁ」
「は、はちまき?…あ、そうか。鉢巻きを取ればいいのか」
でも、二人とも落ちたまま一向に動かない。大丈夫かな。もし大けがしてたら鉢巻きを取るどころじゃ…。
豪星の不安を他所に、暫くして龍児が立ち上がる。真っ赤になった目元で猫汰を睨み下ろし、頭の鉢巻きを奪おうと屈むが。
「―――さわんな!!」触れる前に、半身を起こした猫汰に頭突きされた。
龍児が後ろに倒れる。その隙に、ひらりと揺れた鉢巻きの裾を猫汰が勢いよく掴んで引っ張った。
「あ…!」また誰かの声が上がる。その最中。
「…とったーーーーー!」奪った鉢巻きを、猫汰が思い切り振り上げた。傍では、鉢巻きのなくなった龍児が呆然と猫汰を見上げている。
「やったー!ダーリン!俺勝ったよ!かったーー!やったーーー!」
豪星の姿を見つけると「みてみてー!」猫汰が鉢巻きを持つ手をぶんぶん振った。
ひとしきり振り終えると、次に龍児を見下ろし、「ははは!おいりゅーちゃん!」満面の笑みを浮かべて言った。
「―――ざまあねぇな!」
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