「!」
猫汰の騎馬が離れた瞬間、龍児がぐらりと傾いだ。よくみると執拗に目をこすっている。あきらかに様子がおかしい。
「なに!?龍ちゃん大丈夫!?」
「目が…っ」
「目!?目がどうした!?」
「…あれは塩かな」詩織がぼそりとつぶやく。なんのことかと思ったが。
「…え!塩!?さっき猫汰さん、龍児君に塩投げたってことですか!?」
「多分ね。一瞬だったけど、猫汰の手から粒みたいなものが光って見えたよ」
「それ、反則ですよね!?」
「…いや、屋外だから証拠が残らないと思ったんだろうね。まったく、やり過ぎだ。後でしかっておかないと」
猫汰の卑怯手を、やられた本人たちはつかめなかったらしく、いまだ困惑した様子だった。
やがて、「なにかされた」事には気づいたらしく、「おい先輩!龍児になにしやがった!」騎馬との距離を取りつつ一斉に怒鳴り始めた。
「べつにー?なにもー?」
「シラばっくれんな!あきらかになんかしやがっただろ!」
「卑怯だぞてめー!!そこまでして勝ちたいかよ!」
「―――勝ちてぇに決まってんだろ!」
双子の罵倒を受け流していた猫汰が、かっと怒鳴り返す。
「俺が勝てば!!ダーリンとの!めくるめくベッドインが待ってんだぞ!!」
「…どういうことかな豪星君」
息荒く叫んだ猫汰の所為で、隣の温度が3度下がった。
「いえあの。…言い訳をさせて下さい」
すぐさま弁解に走るも、いつの間にか掴まれた肩からミシミシ音が鳴った。痛い!怖い!
なるべく、なるべく誤解がないように、詩織に事の経緯を説明している最中。
「ごくろーさまだったなりゅーちゃん!これでもらったー!」猫汰が叫んで、まだ屈んでいる龍児の頭めがけて腕を放った。
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