「負けないから払わねーし」

「上等だ!!めにものみてろ!!」

「お昼休憩中失礼致します。次の騎馬戦に参加される選手は、準備のため本部に集合してください。繰り返します、…」二人の背を押すアナウンスが、さらさら流れてくる。

「おっしゃ!!」気合い満点で、猫汰が駈け出した。

龍児も、自分の頬と口を拭うと、立ち上がり行ってしまった。

導火線の短いやりとりが収束して、やれやれ、肩を落とす。その上を、ばんばん、光貴が叩き付けた。

「おつかれさまだなー!」

はい本当に。疲れます毎回。でも、今回はオトナが対応してくれたお陰でことなきを得ました。

「有難う御座いました、光貴さん」

「いーってことよ!ま、若いんだし、このくらいなんてことないだろ。怪我しない程度にうまくやれよ?」

「ははは…善処します」

「そーしてくれ。そんじゃ、俺たちも場所移動するわな。…おーい、春弥、何時までのびてんだ。あのくらいでだらしねぇな。行くぞー」

「うぅう…光貴さん。おなかいたい」

「だから、腹筋鍛えろって言ってんのによ。しゃんとしろ」

「うぅう…ベッドで光貴さんが鍛えて」

「うるせー。馬鹿いってねーで行くぞ」

オトナのやりとりを、片耳で聞き流しながら、ぼんやり遠くを見て―――ふと気付く。

遠くで、猫汰と龍児が、立ち止まって豪星の方を向いていた。どうしたんだろう?目を細めて、遠景を見渡す。

「…あはは。なんだ」

右を見ると猫汰が、左を見ると龍児が、豪星に手を振っていた。






二人の勇姿を見る為、そこそこ見晴らしの良い場所に椅子を置いて座り、左右に分かれた紅白の騎馬を見比べる。紅は龍児で、白は猫汰だ。

騎馬の数は片方9騎。合わせて18騎。流石騎馬戦だけあってどちらもガタイの良い選手ばかりだ。

「やあ、豪星君」騎馬を眺めていた豪星の肩を誰かが軽く叩いてくる。

見上げると、詩織が機嫌良さげに笑っていた。何時の間にか傍にまで来ていたようだ。

「折角だから一緒に観よう」そう言って、詩織は何処から持ってきたのか椅子を置いて座り、自分の足を優雅に組んだ。

「―――次の競技は騎馬戦です。騎手の鉢巻き、もしくは、騎馬が崩れると失格になります。また、団長騎手もしくは騎馬を失格とさせた時点でチームの勝利となります。それでは騎馬のみなさん、ピストルのあとに競技を始めてください」

「もう始まるみたいだね」

「そうですね…」

準備や移動でざわついていた一帯がアナウンスによって静まり返る。騎馬となった生徒が砂利を蹴って前に進み、お互いの間を少し開けてから数秒。「よっしゃあ!」ピストルが鳴ったと同時に一斉攻撃を始めた。

砂埃舞う運動場で紅白に分かれた騎馬がぶつかり合い、早速、鉢巻きの取り合いになる。かと思いきや。

「―――いっで!」誰かが大声でうめいた。そして直ぐ「いった!」「うわなんだ!?」次々と似た声が続く。声の出どころは赤組のようだ。

ぶつかり合いが激しすぎた、と言うには、うめく声の偏りが大きい。一体どうしたんだと目を細めてみると…白組の騎馬が赤組の騎馬の足を執拗に蹴り続けているのが見えた。

「お前等いいな!!」何処からか、喧騒の中よく通る猫汰の怒号が響く。

「さっき打ち合わせた通り騎馬の足ばっか狙え!!」

「ああ。頭を狙うよりも面積が広くて確実だね」詩織が隣でぱんと手を叩く。声が感心に満ちていた。

「…それは、スポーツマンシップ的にどうかと」思うけど、この兄弟には言うだけ無駄ですよね知ってる。

「きたねーぞこら白組!!」

「お前等にスポーツマンシップってのはねぇのか!!」

ぎゃあぎゃあ喚き始めた赤組に、ちゃっかり、騎馬たちの奥に守られていた猫汰が、「なにがスポーツマンシップだっての!」ふんと鼻で笑う。そして。

「おいお前等ぁ!男と爽やかにやり合うのと、後で女と楽しくカラオケすんの、どっちが良いか言ってみろ!!」

一瞬、紅白どちらも静まり帰る。そして。

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