猫汰が復学して、きちんと年齢を全うしているのが嬉しいのだろう。それが、例え、彼氏の影響であってもだ。

本当に、彼は自分に甘いと思う。傍から聞けば、自分の事ながらとんでもない話であるのに。

「あ、詩織ちゃん、晩御飯食べてく?おにぎりだけど」

ふと思い出して、丁度兄が飲み終わったカップを片付けがてら、いそいそと今晩の自信作を兄の元へ寄せた。

比較的カラフルな色合いを覗かせるおにぎりを見て、兄はひとこと「相変わらず斬新だ」と嬉しそうに述べた。

「お前が良いならご相伴にあずかろうかな。嬉しいな、ちょうどお腹が空いてたんだ、いただきます」

「うん!あ、スープも持ってくるね、ちょっと待ってて」

猫汰が、作り置きしておいたスープを温め直し、戻ってくるまでに、兄は既におにぎりを二つ食べ終えていた。本当にお腹が空いていたらしい。

猫汰も、二つ準備したスープ入りマグを自分と兄の傍に置いてから、自分も、残りのおにぎりに手を付け始める。

齧りつくと、5種類の味が、猫汰の舌の隅から隅まで浸透した。うーん、我ながら今日も上出来である。

ちなみに、これには愛情が何時もの数倍こめられている。

何故なら、以前、彼氏がお土産だと言って猫汰にくれた可愛い調味料セットの、その全てをふんだんに盛り込んであるからだ。

自分の愛と、彼氏の愛、いうなれば、これは愛のおにぎりなのだ。

猫汰がひとり、満足げに、おにぎりと愛についての価値観を頭の中で混ぜ込んでいると、不意に、「そうだ」と、兄が声を上げた。

「猫汰、以前彼が簿記検定をとったと言っていたね?彼がもし大学に行かず就職を考えているなら、良ければ、就職先はうちに来ないかい?見たところ勤勉そうだし、お前が勉強を教えてもついていけるくらいの出来なら問題ないだろう。お前も一緒に就職してくれれば僕としても安心だからね、いつでも来なさい」

「ほんと!うんじゃあ、ダーリンに言ってみるね!」

おにぎりの残りを口に詰め込みながら、今しがた誘われた、彼氏と、自分が、会社でもいかんなくラブラブである光景を想像して。

「ダーリンとオフィスラブ…!」

つい叫んで、立ち上がった猫汰に、ははは、と、兄が羨ましそうな苦笑を漏らした。

「お前が嬉しそうでなによりだよ。まぁ、お前がそこそこ乗り気なら、真剣に考えておいてくれ、時期がきたら、良い席を用意しておくから」

「わーい!詩織ちゃん大好きー!」

飛躍した想像に浮かれたまま、兄に遠慮なく飛びつくと、相好を水飴のように溶かした兄が「うん、僕も」と、まんざらでもなさそうな様子で頷いた。

「ところで猫汰、夕飯におにぎりを作るという事は、これは明日のお弁当の試作なのかい?」

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