「ほら、こっち座れ」二人の顔を見比べた後、光貴はにっこり笑い、二人を豪星の隣に座らせた。
「どのみち、昼飯はあと10分で終わるんだよね?豪星がお前らの間を言ったり来たりしてたら、間に合わないよ。だから、ほれ。ぼっちゃん、口あけろ」
「はいあーん」光貴が自分の弁当から大きなおにぎりをひとつ取り出し、龍児の口に噛ませてやった。
思ってもみなかったであろう龍児は、びっくりしながら、律儀におにぎりを頬張った。もごもご、そしゃくしている。
「…んまい」お気に召したらしく、柔らかい声で呟いた。「だろ?」光貴が、得意げな顔で龍児の頭を撫でた。
不意打ちに肩を鳴らす龍児が、じと目で相手を見上げるが、光貴は気にした風もない。
「良かったな、これで、豪星と一緒に昼飯、食べれたじゃないか」
「………」
「お前の卵焼きってやつは、夕飯にでも持たせてやれよ。卵焼きは何時食っても美味いし、無理に食わされるより、腹減ってるときに、味わってもらえるほうがうれしいだろ?なあ、豪星」
「あ、はい。うれしいです」
ぱっと、龍児が嬉し気に顔を上げた。にこにこ、屈託のない顔で豪星を眺めている。
「みつ。余計なことすんな」感化されそうになった豪星を、猫汰の剣呑な声が押しとどめた。
龍児とは違い、苛立ちを隠さない顔で、猫汰が光貴をねめつけた。それもどこ吹く風だ。
「ごめんねー?大人が横やり入れてよ」
「まったくだよ。いまにみてろよ」
「おー、こわいこわい。ま、血の気が収まらないならそれはそれでちょうどいいんじゃねぇの?」
「あ?」
「だからさ、今日は体育祭だろ?どうせならそっちで発散しろや。どうせまだ半分種目あるんだから、どっかでぶつかるだろ?」
三人一緒にきょとんとしたが。「―――そうだった!」いちはやく察した猫汰が、勢いよく立ち上がって、豪星と龍児の目前に立った。
びっ!と、指先を龍児に向ける。そこに敵意を感じたのか、龍児の丸くなっていた目が、さんかくに戻った。
「おいてめー。ひとの至福ランチタイムをぶち壊しやがったツケも、今までのツケも、次の騎馬戦で全部払ってもらうからなぁ!」
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