豪星が体勢を崩したのと同時に、猫汰がはっ!と顔を白くさせた。
「ごめんダーリン!怪我してるんだったね…大丈夫?」
「は、はい。えっと、行くのは構わないんで、いま杖を…うぉわー!」
杖を取るから、と、言い切れなかったのは、自分の身体が横から引っ張り上げられ、ぐわっと宙に浮いたからだ。
重力に逆らった身体が、誰かの両腕にがっしりと支えられ、視界が天上に上がる。
…あれー!俺また抱き上げられてるー!?
「行くぞ豪星!」
「ええー!」
今度は龍児君かー!
あと何で横抱きなのー!流行ってるのー!
「ま、待てこのやろ…っ」呆けていた猫汰が、我に返って直ぐ、龍児から豪星を奪い返そうとしたが「おっと足がすべったー!」けんじのスラィディングに邪魔される。
「いってぇ!」派手に転んだ猫汰の頭上で、双子がげらげらと大声で笑っていた。
「せんぱい横抱きにするとか受ける!!流石龍ちゃん!」
「そのままゴールしろよ龍児ー!一位とれよー!」
「…おいふたご!!良い度胸してんじゃねぇか!!」
「やっべ!逃げるぞへんじ!」
「おうともけんじ!」
「待てこらー!」
三人の声が、遠く、遠く遠ざかっていく。
それを見る事もむしろ周りを見る事も出来ず、豪星は、横抱きのまま、顔を隠して状況に甘んじていた。
もう全部、捻挫の所為にしておこう。そうしておこう。そうしないと、いろいろつらい。
「着いたぞ!俺いちばん!」
見事一位に達した龍児が、豪星を抱えたまま、審判に向かって誇らしげに告げた。
審判が、苦笑いで対応する様が、目を瞑っていてもよく分かった。
「借りてきた!俺の親友!」
一応間違ってはいないので、借りてきたと審判側に認められ、龍児は無事、一位として点をとったが。
龍児君…親友はね、相手を横抱きにしないと思うんだ…。もう遅いけどね。
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